TRPG:物語とシステム 神秘な魔法を求めて

ストーリーとシステム

前回の記事で書いたとおり、TRPGは、会話≒ストーリー部分と、システム≒ルール部分の二つの観点で捉えることができ、それらは時に対立、また補完しながらTRPGを作り上げています。


その二つの歩みを、今回は魔法の観点から見てみましょう。

属性火の範囲攻撃ダメージ20〜40

TRPGで魔法というと、花形はやはり攻撃魔法です。主に戦闘で使用し、HPを削るアレです。コンピュータRPGでも、おなじみですね。


これはこれで大変楽しく痛快なものですが、ある時、ふと、「でも魔法ってそういうものだっけ?」と思う時もあるでしょう。


童話や幻想文学の中の「魔法」は、様々に不可思議で神秘的で、効果が予測できなかったり、運命的、物語的な「代価」を求めたりします。
そうした魔法をTRPGで扱うためにはどうすればいいのでしょうか?


以下では「神秘的な魔法」を扱うために、TRPGがどのように会話とシステムを融合させていったかを見て行きます。

神秘とは何か?

神秘な魔法と言いましたが、じゃぁ「神秘性」って何か? ということになります。
様々な見方があるでしょうが、おおざっぱに以下の二つで考えます。

  • 未知であること
  • 深い感動を呼ぶこと

未知なる魔法とその取り組み

魔法の魔法らしさ、神秘性は未知なるところにあると考えられます。
常識で出来ないことを可能にするのが未知の面白さです。


TRPGの場合、そうした未知の魔法への取り組みは、魔法のバリエーションを増やしていったことがあります。


たとえばD&Dでは長い歴史の中で、様々な種類の魔法を積み重ねてゆきました。
単純な攻撃魔法、実用的な魔法以外にも、日常で使うような魔法、時間をかけて儀式をすることで行う魔法等々です。その究極の一つは「ウィッシュ」、願いと呼ばれる魔法で、これらは究極の大魔法として、魔法使いが願ったことが(一定の条件とGMの認可の元で)だいたい何でも叶うという凄いものです。


D&Dの魔法使いは、呪文書を持ってそこの呪文を記憶して読む……というタイプのものが根本だったのですが、プレイの中で、それ以外のスタイルの魔法使いも様々に編み出されました。
現在では、様々な神秘の技は、まず「パワーソース」という概念に整理され、そのパワーソースの下に、さらに様々なバリエーションが選べる形になっています。
「呪文書を持って呪文を唱える魔法使い」も居れば、異界の精霊の力や天体の力を借りて呪文を放つものもおります。


別の方向への進化として、汎用魔法システムがあります。
ファンタジー小説でよくある「魔法使いが研究してオリジナルの呪文や魔法を編み出す」シーンを見て、「俺もやりたい」と思った人は多いでしょう。用意されてるデータの中から選ぶんじゃなくて、自分で魔法を作りたい。
そういう人向けの魔法システムも、多数存在します。
たとえばTORGというゲームの魔法ルールでは、オリジナルの魔法を詳細に設計するルールがついています。
魔法のパワーソース(光、闇、地、水、火、風)から力を引き出し、そこに発動形式を組み合わせる、「魔法使いの呪文」といったシステムもあり、また、おどろおどろしい儀式を無数に積み重ねて結果に至る、儀式、呪術的な魔法システムもあります。
ストーリーテラーシリーズの、『メイジ・ジ・アセンション』は、あらゆる魔法は、9つの基本的な魔法原理(領域)の組み合わせとして解釈され(例:精霊に実体を与えて戦わせる=生命4+精霊4等)、それらの領域に精通することで発動が可能になります。

未知から既知へ

今あげたのは、主に、未知の魔法をルール化、システム化しようとする流れです。
「あれ、でもシステム化されたら未知じゃないんじゃない? 神秘じゃないんじゃない?」という意見もあるでしょう。


ある意味、その通りです。


魔法使いのお話は、読者として読むから神秘的なのであって、当の魔法使いにしてみれば魔法といえど、熟練した、信頼できる技術であって、そこまで神秘的ではないかもしれない。TRPGとして「魔法使いをプレイする」した場合に、「自分でできるようになったから未知ではない」という場合もあるでしょう。


ただし、ここで覚えておいていただきたいことは、それらは確かにある時までは「未知」だったのです。
「このお話面白いな」「でもTRPGでは、こんなのはできないよね」「無理だよね」と思われてた時代が存在しました。そうした部分に対して「いや、できるはずだ」と思った人がいて、それをシステム化して遊べるようになったわけです。
その過程こそが一つの魔法かもしれません。


じゃぁ神秘的な魔法を神秘的なままTRPGとして扱うことは不可能なのか?
そうではありません。それについても見て行きましょう。「魔法と深い感動」について。

魔法と深い感動

アニメ映画にもなりましたゲド戦記というお話があります。
ゲド戦記は「名前の魔法」の世界で、物事の「真の名」を知ることが魔法となります。
こちらの第一巻「影との戦い」では、主人公のゲドは、暗黒の影と戦うために、数々の冒険を繰り広げ、悩み、傷つき、そして最後に影に勝利します。


「魔法らしい魔法」を扱ったお話としては、真っ先に挙げたい作品の一つです。


さて、どんなお話でもそうですが、「影との戦い」も、やろうと思えば、三行くらいにまとめることができます。で、その三行を読んで「魔法らしい魔法」の「深い感動」があるか、というと、これはないですね。
ゲドでなくてもなんでもそうですが「○○の正体は××だから、主人公が△△して終わり」なんていったら興ざめも甚だしい(笑)。


このお話を読んだ時の深い感動、魔法に触れた興奮というのはどこから来るのか、といえば、それは設定やプロットそれ自体ではなく、私たちが本を読んでゲドと一緒に考え、悩み、旅し、その旅路の最後に放たれる魔法であるからこそ、感動するわけです。


深い感動というのは、「深く考え続けること」からもたらせると言えます。
それは、ゲドの本の文字の中にあるのと同時に、それはじっくりと読み解く心の中にあるのです。

TRPGと深い感動

TRPGのセッションで「深い感動」を得るにはどうすればいいでしょうか?
深い感動を得るには、「読み解く」必要があります。


さてTRPGというのは、基本、卓の人間が、共通のイメージを持ってプレイするゲームです。
GMが「君たちはお城の大広間にいる」と言って、PLもそれを想像します。もちろん、一人一人の考える「お城の大広間」は、もしその頭を見ることができればずいぶん食い違っているのでしょうが、ゲームをするのに支障のない範囲で共通していればいいわけです。食い違いについては質疑応答しながら、お互いに修正してゆきます。


で、この時、「全員がイメージできる」ことが重要だとすると、「読み解きを必要とする」ような難しいイメージは、出しにくいということになります。


GMが「一言では説明できない神秘的な光景が〜」とか言ったら「いやいや説明してくれよ」とつっこむでしょう(笑)


TRPGの基本が、わかりやすい、一般的な光景、イメージのやりとりで進むとすると、深い感動を呼ぶような、未知の、読み解きを必要とするような魔法、イメージを扱うにはどうしたらいいでしょうか?

過程をゲーム化:シナリオと名人芸

TRPGは、これについても答えを出してきました。
一言で言うなら「共有の過程をゲーム化すること」です。
「読み解きを必要とするイメージ」を、最初から、卓の全員で、ばっちり共有することはできません。
逆に言うなら、「皆で読み解いて、理解し、共有する過程」それ自体をゲームとして捉えればいいわけです。
このことはTRPG一般に言えますが、魔法の表現とも相性がいいです。


多くのTRPGでは、具体的なシナリオの中で「読み解きの過程」を提示し、それによって「神秘的な魔法」を表現してきました。
そうした「魔法」といえば、国産初のRPGである「ローズ・トゥ・ロード」に収録された「ミレア島の黒塔」を挙げる人がいます。
なにせ、国産初の26年前のゲームなので、今からすれば荒削りなところも多いですが、そんなこととは関係なく、舞台となるユルセルームの雰囲気、幻想的なシナリオ、GMとPLの語り、さらに、多くの人達にとって「はじめてTRPGを遊んだ体験」という魔法もあいまって、忘れられない印象を得ている人が多い作品です。
「ミレア島の黒塔」以外でも、多くの人にとって「忘れられないセッション」「本当の魔法を感じたセッション」があるのではないでしょうか。


この時、「シナリオをプレイするという過程」が、「深い感動」を生むわけです。
そしてそれを支えているのは、システム・データよりも、GMのシナリオや、それをプレイする語りの中にあるわけです。


TRPGが人間と人間の遊びである以上、「ストーリー」や「語り」は重要な部分であり、重要な可能性です。GMとPLが工夫して努力すれば、どんな魔法も、どんな神秘も描き出せます。TRPGにはそうした可能性があります。


とはいえ、GM力、PL力だけに頼るのも、ゲームとしての進化がないことになります。
GM力、PL力をより生かすシステム、フォローするシステム、同等のGMPL力なら、より面白くするようなシステムはないでしょうか?


もちろんあります*1

過程のゲーム化:システム

xenothが思い出すのは、『ビヨンド・ローズ・トゥ・ロード*2の魔法表現です。
このTRPGでは、魔法は「マジック・イメージ」という、タロットにも似た象徴的なシンボルの組み合わせで、占いのように使われます。


このゲームで魔法使いは、たとえば散策や瞑想、何か魔法的な出来事に触れあった時などに、一種のインスピレーションとして、マジック・シンボルを得ます。
たとえば、森の上から登る朝日を見て、インスピレーションを受けた魔法使いは、「真なる金」と「車輪」のイメージを獲得します。
全ての生命の源たる太陽に真なる黄金色の力を見て取り、それを受け取って育つ森の中に、転変する地上の有様=車輪を感得する、といった具合です*3
タロット占いみたいなもんですね。


魔法を使う時には、このようにして得たマジックイメージを組み合わせることで、発動します。
この時もタロット占いのように、「真なる青+逆位置の鎖+車輪」で、「静かなる大海の力を持って転変をとどめる封印の魔法」のように解釈するわけです。


なんだかそれっぽいでしょう?
ここには、「未知の魔法」を、解釈して読み解くという過程があります。それによって深い感動を得ているというわけです。


魔法を使ったTRPGで、同じく忘れがたいのが「ウィッチクエスト」です。
ウィッチクエストは、魔女(になったばかりの女の子)と猫がペアを組んで遊ぶゲームで、童話的な、ほのぼのとしたファンタジーの再現を行うTRPGです。


ウィッチクエストの魔女の使う魔法は、実のところ制限がありません。
状況や効果に応じた難易度の修正はありますが、事実上、どんなことでも「これを魔法でやる」と言うことができます。
それじゃシステムとして破綻してないか? と思う人もいるでしょう。
実のところはそうではありません。
なぜなら、ウィッチクエストの魔法も、また「過程の共有」だからなのです。


ウィッチクエストでは、基本的に「困っている人々」がいて、それを助けるために魔女が派遣されます。魔女は魔女猫と共に、困っている原因を調べてゆきます。
そして、(たいていの場合)その困った原因の大本である「悲しんでいる誰か」をつきとめて、その誰かと友達になったり、元気を出してもらったり笑顔になってもらうために、最後に魔法が使われます*4


このように、ウィッチクエストの魔女の魔法は、セッションを通じて「過程を共有」した結果として使われるので、制限の必要が無く、大変、余韻のある魔法らしい魔法となります。

過程のゲーム化:TRPG一般

実のところ、この「共有過程自体のゲーム化」というのは、広く見れば、TRPGそのものがそうだと言えます。
キャラシーに書いただけの数字と文字の羅列が、同じ卓の人々と一緒に遊んでゆくことで共有され、互いに膨らんで行くこと。それがTRPGの面白さであると言えましょう。
キャンペーンのクライマックスがあれほど面白いのは、そこに見えるものの全てが、自分も仲間も敵も街も違って見えるのは、ずっとずっと皆で深く「読み解き続けた」結果だからです。
TRPGのシステムの多くも、その「過程の共有」を視野に入れながら進化してきたと言ってもいいでしょう。


国産ゲームにおいては、たとえば、天羅万象・零では「世界最速」というキャッチフレーズで、「1キャンペーンを1セッションで」というプレイスタイルが目指されました。これは言い替えれば、過程の共有を加速し、「キャンペーン分の共有」を1セッション中に行ってしまおうというものでもあります。そのために、業システムをはじめとする多くのシステムが投入されました*5


これは典型的な例ですが、「過程の共有を加速させ、セッションの密度を高める仕組み」は、ほぼあらゆるTRPGデザイナーが目指すことでしょう。


そうした中から「過程の共有」を、より積極的、野心的に取り入れたシステムも出てきています。
「最終的に共有するのだから、初期状態では不完全。未決定」というのを積極的に意識したシステムです。


Aの魔法陣』では、「空白設定の活用」というルールがあります。PLは、設定の埋まっていないところをどんどん決めることを推奨されており、GM(Aの魔法陣の場合はSD)も、「そこは決めていない」と言ってOKになっています。
多くのTRPGで、PLが設定を提案することは、ルールやシステムに影響しない範囲のフレイバーとしては容認されていますが、Aの魔法陣は、ルール、システムと直結させて、ゲームに勝つため、クリアするために、攻撃的に設定を作りだすのがルール化、推奨されているのです。

SD:洞窟に入ると、人喰い鬼が襲ってきた。
PL:洞窟の天井の高さは?
SD:特に決めていない。
PL:じゃぁ俺、「身長が低い」の設定があるので、天井も低いとしたい。
SD:その設定は通そう。では人喰い鬼達は背をかがんで歩いており、格闘に不利な修正がつく。

みたいな流れです。


最近だと、シナリオクラフトシステムもあります。
こちらはシナリオのおおざっぱな骨格を用意し、ゲームとして展開させながら、その具体的な部分を、プレイヤー、GM、みんなで決めてゆくというものです。
シナリオクラフトはFEAR社をはじめとする多くのTRPGシステムに搭載され、その中で、リプレイ含むサポートやプレイ経験が蓄積され、それを反映した改良も続いているので、これ系のゲームシステムの中では、遊びやすさが磨かれており、そういった意味でもお勧めです。


Wローズの「言葉決め」も、その一つです。ビヨンド・ローズ・トゥ・ロードを含むローズシリーズの流れを組んだ魔法表現と、キャラクター表現、シナリオ表現が一体になりつつ、そこで様々な「言葉」や「響き合い」を解釈し、共有する過程がゲームになるという大変、野心的なシステムです。
ただTRPGで多かれ少なかれある問題ですが、野心的なシステムで、かつ、まだ発売したばかりなので「こなれていない」感はあります。あるいはxenoth個人がまだ遊びきれてないとも言えます。このあたりは、もちろん、システムの可能性、潜在能力でもあるので、これからに期待したいシステムです。

過去と未来

このように、TRPGにおいて、「神秘な魔法」は、様々に取り組まれてきました。
一方では、未知を既知に変えることによって。より広いジャンル、お話を表現できるような形に進化してきました。
また一方では、深い体験を、深いままに共有するためのシステムが夢見られ、模索され、具体化されてきました。


魔法に代表される幻想性は、TRPGシステムの中で対立するものでも解体されるものでもなく、デザイナー、GM、PL他様々による、努力の継承、発展によって、少しずつTRPGとの親和性を高めていったのです。


Wローズというゲームの新規性も、そうした大きな流れの中に位置づけることができるでしょう。

*1:文脈上、シナリオやGMPL力主導の話をしてますが、もちろん初代ローズ・トゥ・ロードのシステムにも、そうしたGM、PLを援護する工夫は色々ありました。

*2:ローズ・トゥ・ロード」シリーズの二番目の作品です。ミレアの黒塔の続編シナリオ「アウル・アエンダ」も収録されています。絶版で手に入りにくくなっています。紹介しておいて申し訳ない。

*3:実際のプレイでは、得たマジックイメージはGMが指定することもあれば、山札から引く場合もあります。その際は、うーん、これを引いたということは、こういうインスピレーションだったのか? とかこじつけたりもします。

*4:ルール自体に魔法を使うのは最後でなくちゃいけない、といった直接の決まりはなく、おおざっぱなイメージです。他の作品もそうですがxenothの解釈なので、詳しくは現物をどうぞ。 http://www.kalin.to/~wq/pukiwiki.php?%A5%A6%A5%A3%A5%C3%A5%C1%A5%AF%A5%A8%A5%B9%A5%C8%A4%C8%A4%CF

*5:後の「カオスフレア」のフレアシステムにもつながりますが、お互いの行動や発言を評価しあう仕組み、その際に、カードやチットといった小物を使う仕組みは、互いのノリ、方向性の共有を援助する良いシステムとなっています。言葉だけじゃなくて体を動かすこと=非言語コミュニケーションをシステム化したという点でも興味深くあります。カードやチットの渡し方一つで色々な印象が与えられるわけです。