批評モドキの見分け方

要約

・作品を見て、わかりやすい特徴をピックアップする
・適度に一般的なテーマに、こじつけて時代性と言い張る
・批評に見える文章(批評モドキ)が完成する

分析と検証

批評というのは、作品の分析です。
まず、その作品が、どんな部品で出来ているのかを解析し、そして、それぞれの部品は、どう組み合って全体としてどう機能しているのかを調べます。
最後に、それが本当に正しいかどうか、他の作品と比べて検証するわけです。


しかし、そうした分析は、実は結構難しいものです。自分なりに作品を組み立てたことがない場合、なおさらです。

批評モドキ

さて、批評をしようと思い立ったとします。
作品を見て、多くの人が言うのは「ここが新しい」「作品Aは、これまでの作品Bなどと比べてここが優れている」というものです。
人間、そういった「わかりやすい違い」があると、そこに目がいくわけですね。


例:「新世紀エヴァンゲリオン」においては、これまでのロボットもの作品と違い、主人公の少年パイロットが、いつまでも優柔不断で、誰かを守るために戦おうとしない。
例:俺Tueee系と呼ばれる作品群では、これまでの作品と違い、キャラクターが努力せず強い力を手に入れて活躍する。


批評を行う場合、ここから、
・作品の他の部分は、どうなっているのか
・そうした「新しい点」は、作品全体の中で、どんな機能を果たしてるのか?
・本当に「新しい」のか。それまでの作品と比較・分析した場合、どうなるのか?
といった考察が重要となります。


しかし、そうした考察ができない場合に、批評らしさを簡単に装う方法があります。
それが「時代精神」です。

みんな時代のせいなんだ

・「エヴァンゲリオン」でパイロットが優柔不断なのは、主人公が主体的に世界を変えるというストーリーがリアリティを失った、90年代からゼロ年代の、セカイ系な時代性を反映している。
・「俺tueee」が受けるのは、努力を好まない若者精神、努力が報われない社会の反映である。


少し、それっぽくなってきたでしょう?
実際問題、「そういう時代だから」は何の説明にもなっていないのですが、この線で長文を書くと、なんか批評っぽく読めます。
「ほんとにそういう時代なのか」とか「他に説明はないのか?」とか「作品の特徴が不況を反映した結果なら、バブル期にはそういう作品はなかったのか?」とか、検証すべきことは山のようにあるわけですが、そこは華麗にスルーするといいでしょう。
「時代の一回性」とか言い張ると、それっぽくなります*1


さて、作品の特徴を時代性と結びつけると言われても、難しいのではないかと感じるかもしれません。「本来なら」その通りです。
しかし、単にこじつけるだけなら簡単です。誰でもできます。
作品内容に関係なく、大きくて漠然としたテーマであれば、たいていくっつきます。
かっこよく見せるためには、よく知られてる社会問題や、いかめしい専門用語をあてるといいでしょう。
実例については、付録:テンプレートを参照してください。

批評モドキの見分け方

以上から分かるように、「作品の表面的な新しさ」だけ持ってきて、そこに長文をこじつけるのが批評モドキです。
批評モドキを見分ける目安が幾つかあります。


その一つは「堅実さ」です。
通常、ある結論を証明したい場合、「事実」や「納得できる当たり前の話」を積み重ねて、段々と「新しい、意外な結論」へ繋いでいきます。
一方、批評モドキは、表面的な類似性と思いつきだけで出来ているので、そうした地道な説明ができません。
そのため、飛躍のある首をかしげるような理屈が、次々にでてきます。もちろん検証とかされません。論理を飾るために、独自用語や、独自解釈した用語を多用する場合もあります*2


もう一つは「速度自慢」です。
批評において、最初にそこに着目したという独創性は評価の一つですが、後追いであっても、より深い考察をすることで、ちゃんとした評価を得ることもできるわけです。
一方、批評モドキにおいては「より深い考察」というのがありえないので、着目が早いことが価値の全てになります。
結果、批評モドキしかできない批評家は、「最も早く」「誰よりも早く」、自分が注目したことを喧伝します。


ある批評で、独自用語や、独自解釈、飛躍のある論理が沢山あって、検証がなく、その作者が異様に「自分が一番早くこれを見つけた」ことに固執する場合、その批評家は、批評モドキである可能性が高いと言えるでしょう。

付録:テンプレート

○同時代性チャート
表1:テーマ(1D3 ROC)
1:若者チャートへ
2:社会問題チャートへ
3:ポスコロチャートへ


若者チャート(1D3 ROC)
1:離人症的心性
2:草食系世代
3:引きこもり


社会問題チャート(1D3 ROC)
1:デフレ社会
2:ブラック企業
3:無縁社会


ポスコロチャート(1D3 ROC)
1:グローバリズム
2:世界内戦
3:チェチェンゲリラ


・使い方
好きな作品を選んでから、同時代性表を2回振り、それぞれチャートを参照して、同時代性を二つ決め、以下のテンプレートに当てはめます。


・テンプレート:
「作品」の「新しい点」は、「同時代性1」と「同時代性2」の交差する現代社会と共振するのみならず、その時代精神そのものを暴き出す批評的価値を持ち、まさに世界文学といえる。


例:
「ハーモニー」における「健康管理社会」は、「引きこもり」と「グローバリズム」の交差する現代社会と共振するのみならず、その時代精神そのものを暴き出す批評的価値を持ち、まさに世界文学といえる。

*1:同じ時代は二度と来ないのだから、分析に意味はないというわけです。本当にそうなら、今後どういう作品が出るか、とか、そういう予想が全く出来なくなるので、学問としての批評の自殺なのですが、批評モドキをする人は気にしない場合が多いようです。

*2:論旨に飛躍が見られる場合、批評モドキの知的怠慢である場合の他、自分が内容についていけてない場合も考えられます。そういう場合、相手に「ここがわからないんですけど」と聞くと良いでしょう。批評モドキは、こっちの質問をそらして関係ない話をしてきます。