TRPG:物語とシステム その1

要点

コンピューターによる、初期のTRPGの実装は、ストーリー、会話をシミュレートしようとするアドベンチャーゲームと、戦闘・システムをシミュレートするロールプレイング・ゲームに大きく分かれた。
そのことからもわかるように、TRPGの中で、会話・ストーリーと、システムは、時に補い合い、時に相克しながら、長い時間をかけて変化してきた。

Wローズレビュー

AGS様の最新の記事が掲載されました。
『ローズ・トゥ・ロード』というRPGをやってみた: Analog Game Studies
今回掲載されたのは東條慎生氏による、『ローズ・トゥ・ロード』新版(正式名称、The Wander Roads to Lord、通称Wローズ)のレビューです。
趣味というのはとかく内輪に閉じがちなもので、TRPG初体験の東條氏による紹介は新しい視点として大変にありがたく、レビューを興味深く読ませていただきました。


今回の記事は、東條氏のレビューに、幾つか補足する形で、TRPGと物語性(文学性?)の関係を自分なりに整理しようというものです。

アドベンチャーゲームとは

 一般にRPGと呼ばれるゲーム機でプレイできるコンピュータRPGというのは、このTRPGをコンピュータ上で再現したものなので、TRPGTRPGと呼ぶのは話が逆になってしまい、もともとは卓上RPGをこそ「RPG」と呼ぶものであったらしい。ゲームカテゴリについて、「アドベンチャー(冒険)」と「ロールプレイング(役を演じる)」というのはそれぞれ逆じゃないか、という定型のネタがあったけれど、これはRPGがそもそもテーブルゲームだったという起源が忘却されたために起きたことが原因のひとつ。各プレイヤーがそれぞれキャラクターを演じてプレイするからロールプレイングゲーム、というわけだ。

「逆じゃないか、という定型のネタ」ですが、定型のネタだった頃から、ずいぶん時間が経ってしまったので(笑)、わからない方も多いのではないかと思い、余計な補足をさせていただきます*1


コンピューター・ロールプレイングゲームのほうは、説明の必要がないと思います。
ドラクエ」や「FF」、「ポケモン」なんかですね。そのご先祖を遡ると、「ウルティマ」や「ウィザードリィ」という海外ゲームになります。
キャラクターが、怪物と戦いながら成長して強くなってゆく、というのがだいたいの定番です。


一方のアドベンチャーゲームですが、ここ最近は、微妙に聞かなくなった名前かもしれません。
30年くらい前、ファミコンが出始めた頃が、日本におけるアドベンチャーゲームの全盛期でした。
こちらは戦闘要素や成長要素を持つロールプレイングゲームに対し、純粋に謎解きやストーリーに特化した形式を言います。
全盛期のアドベンチャーゲームは、そのままの形ではあまり残っておらず、様々な形式に分岐してゆきました。
現在だと、「弟切草」とか「街」とか「428」とかのノベルゲームは、アドベンチャーゲームの子孫として繁栄しています。よくノベルゲームタイプのギャルゲーなんかが、恋愛アドベンチャー、恋愛AVG、ADVなんて呼ばれることがあるのが、その名残ですね。謎解きやパズルを中心に据えた形のゲームとしては、「逆転裁判」や「レイトン教授」最近だと「ダンガンロンパ」なんかが最近のアドベンチャーゲームですね*2


さてドラマ中心で謎解きするほうが、「アドベンチャー=冒険」ゲームで、怪物倒して冒険するゲームが「アドベンチャー」じゃなくて「ロールプレイングゲーム」ってヘンじゃない?
というのが、東條氏のおっしゃる定型のネタです。

TRPGの生んだ双子

さてさて東條氏の記事では、コンピューターRPGがアドベンチャーじゃなくてRPGなのは、TRPGのコンピューター版だからとおっしゃっていますが、補足させていただくと、実はそれだけではありません。アドベンチャーゲームというのも元々はTRPGのコンピューター版なのです。


アドベンチャーゲームの一番元祖とされているゲームを「Adventure」と言います(わかると思いますが、この作品の題名が後のジャンル名となりました)。作られたのは1975年。D&D発売の翌年です。
「Adventure」の内容は、巨大な洞窟に潜って、怪物をかわしながら、宝を集めるというもの。プレイヤーが「キタ ススム」「アタリ ミル」といった単語を(英語で)入力すると、コンピュータから返事が返ってきて、それによってゲームを進めるというものです。
ストーリー、セッティングはD&DをはじめとするファンタジーRPGの設定を踏襲しています。
そしてゲーム内容自体は、プレイヤーとゲームマスターの対話をシミュレートしているわけです。


コンピューターロールプレイングゲームの元祖は、「Rogue」と呼ばれるダンジョン戦闘ゲームに遡るとされています。そのもっとも初期のものは「Dungeon」といい、名前からわかる通り、D&Dの移動、戦闘ルールを、ボードゲーム的にコンピュータに移植したものでした*3


つまり、アドベンチャーゲームと、コンピュータRPGは、どちらもTRPGの子供で、アドベンチャーゲームは「プレイヤーとGMの会話」を、コンピュータRPGは「戦闘して成長するというシステム」を、シミュレートしたところから始まったと言えるでしょう。


D&Dが出たのが1974年。「Adventure」が1975年、「Dungeon」が1975年です。
当時は家庭用ゲーム機はおろか、パソコンという概念すらなく、大学に置いてあるどでかい超高価な業務用コンピュータで、最先端の研究者がこんなのを作って遊んでいたわけで、当時のD&Dプレイヤー層と、コンピューター研究者(ハッカー)層の親和性の高さが伺えますが、それは余談。


そんなわけで「Adventure」と「Dungeon」は、TRPGの二つの子孫であると同時に、二つの方向性、すなわち「会話=ストーリー」と「戦闘=システム」であると言ってもいいでしょう。

会話と戦闘

当時の限られたコンピュータの容量で、TRPGを再現したい時、ある人は、戦闘システムと経験値を実装しました。
ある人は、GMとプレイヤーの会話を実装しました。
これはTRPGそのものの性質……「会話≒ロールプレイ≒ストーリー」と「戦闘=システム」のインタラクションを表す実例として大変面白いですね。


この後、コンピュータRPGとアドベンチャーゲームは相互に発展を遂げ、やがて、戦闘もあれば、ドラマもあれば謎解きもあり、会話もあるといった、今の形のCRPGに結実してゆくわけですが、さてではTRPGのほうは、この二本柱をどのように変化させていったでしょうか?


というところで長くなったので、次回に続きます。

*1:東條氏のレビューとは全く別の横道なので、本当に余計です。

*2:1207 0100 指摘をいただいて更新

*3:ちなみに、この当時、アドベンチャーゲームのほうでも「Dungeon」という作品があります。そちらは「Zork」と呼ばれる有名なアドベンチャーゲームシリーズの初期タイトルです。要するに、みんなD&Dが好きだったんですね。