自由なセッションとシステム

要約

TRPGのシステムとは道具であり、状況、必要に応じて使い分けるべきものである。
特定の方向性のセッション、プレイスタイルをやりたい場合は、それに応じたシステムを選ぶのが、大前提となり、それを無視した議論は意味がない。


いわゆる「自由な」セッション、すなわち、ストーリー展開を規定せず、プレイヤーの意見を大きく取り入れるセッションをするにも、それに適したシステム、適さないシステムが存在する。

ダンジョンマップとGMの苦労

D&Dというゲームがありましてて、これはGMが用意したダンジョンを、プレイヤーが攻略してゆくTRPGです。いや、でした。


でしたというのは、D&Dというシステムも長い間に成長を続けて、様々に色々なことができるようになりました。とはいえ、ダンジョンを攻略する、というのが、大きなテーマであることは変わりません。


ダンジョンを作るのは楽しいものです。自由帳に迷路とか書いたことがある人とか、地図を描くのが好きな人なら、そのワクワクがわかってもらえるんじゃないでしょうか。
自分だけの部屋を作り、間取りを作り、宝や怪物や罠や住人を配置して、そこに潜るプレイヤーの気持を想像するのは、楽しい瞬間です。


ところで、D&DはTRPGなので、GMが意図した通りにストーリーが進むとは限りません。徹夜で準備したダンジョンがあっても、「いや、そのダンジョン、入らないから」と言われる可能性はあるわけです。

コストパフォーマンス

ダンジョンに入らない理由は様々です。入らないことが納得できる場合もあれば、納得しにくい場合もあるでしょう。


過程はともかく、結果的に言うなら、プレイヤーがダンジョンに入らない場合、GMが苦労して準備した労力がゲーム中に全く生かされないことになります。いうなればGMは無駄な苦労をしたわけです。何時間もかけた準備がチャラになる、というのは、ゲームを楽しむにおいては、望ましくないことでしょう。


逆に言うと、せっかくGMがそれだけ苦労したんだから、その方向で楽しむのが、GMがダンジョンマップを用意するゲームに向いている遊び方というわけです。D&Dに限らず、アリアンロッドでもセブンフォートレスでも同じです。

準備は大切にしよう

ダンジョンに限らず、GMは様々なものを用意します。プレイヤーもそうです。コストがかかる準備をする場合、それを生かす形のセッションが望ましく、せっかくした準備が無駄になるのは望ましくない。


GMが細かいシナリオを用意した場合、ある程度、それに乗るのが楽しく遊ぶ方法でしょう。ある程度というのは、もちろん、最初から最後までGMの敷いたレール通りに進め、という話ではありません。もちろん、GMの側でも、プレイヤー、PCが、乗りたくなるようなお膳立ては必要です。


そういうのが窮屈で、思いっきり好きに動きたい、という場合もあるでしょう。
それはそれで楽しい遊び方です。ただし、その場合、それに適したシステムと、それに適した準備が必要になります。

自由なセッション

プレイヤーが目的を決めてよくて、好きなところにゆけるのが前提とします。
そういう場合、GMとシステムの両方に対応力が必要とされます。


地図があって、プレイヤーが「じゃぁ、今回は、この都市にゆこう」とした時に、自由なセッションでは、事前準備無しで、その都市に何があって、どんなことが起きるのかを、即興で対応して描写する必要があるわけです。


わかると思いますが、これは、かなり大変な技で、いきなり身につくものでもありません。また、システムによっても向き不向きがあります。
例えばダンジョン攻略がメインのシステムで、「ゲームが始まってから即興で新しいダンジョンを作る」とかが難しいのは言うまでもないでしょう。

傾向と対策

自由なセッションの難しさばかり強調しましたが、もちろん、やり方次第です。

サンプルデータを使う

プレイヤーが地図を見て、その真ん中の大きな都市に注目します。
「よし、この街へ行こう!」
大都市の設定は……ソースブックにありました。
GMはそれを参照しながら、風景を描写し、必要に応じて重要NPCを登場させればいいわけです。
背景世界データが豊富なTRPGであれば、そのように既存の設定をどんどん使ってゆくことで、GMは楽に対応することができます。


ただ公式設定が詳しければ詳しいほど、「俺の知ってる公式設定とGMの解釈が違う!」問題が出てきたりするので、このへんはGM、PLともに広い心で対応する必要があります。先人の言葉に「Your glorantha may vary.」(みんなのグローランサはそれぞれ違うものさ)というのがある通りです。


サンプルデータが足りない場合、自分でデータを作る必要があります。
この時も、汎用データの類があると便利です。
つまり、キャラクター作成に一時間かかるようなTRPGで、お気軽にNPCを出そうとする時に、「ちょっと一時間待ってね。このNPCのデータ作っちゃうよ」というわけにはいかないって話ですね。汎用サンプルキャラみたいなのがあれば、そこから取ってくれば済みます。


即興で自作する場合は、簡易作成法があったりデータが軽いTRPGが有利です。N◎VAなら「こいつはエキストラだから」「Aの魔法陣」なら「根源力1500。攻撃500,防御500,その他500」で済みます。

背景世界と想像力

さて、プレイヤーが、今度は、地図の端っこを指さして、小さな街を指したとします。さすがに、こんな小さな街の設定まではソースブックにもありません。さぁどうするか?


まずは、じっくり地図を見ます。
この町は小さな湾に面して、街道から少し離れてる。港町というほど大きくないから漁村だろう。漁村には漁師さんが住んでいるだろう。漁師さんだから朝が早くて夜は、すぐ寝静まる街かな。よそ者が来たら、どう反応するか? 冒険者にはどんな顔をするか?
魚を売りに外に出たり、日用品を売りに来る商人さんとかはいるだろうから、外部とつきあいが無いわけでもないだろう。
さて、漁村には、どんな人がいて、どんな事件があるだろう?
漁は共同作業だから、しっかりした共同体があるだろう。そこでロミオとジュリエットな若者や、漁師以外になりたい若者もいるだろう。あるいは海にモンスターが棲み着いて困るとか……。


こういう発想が、すらすら出てくるようになれば、自由なセッションを楽しくできます。
出てこないって? まぁそりゃそうですよね。そういう時は、読み込みです。


中世ファンタジー系のゲームをするなら、現実のヨーロッパ中世で人々がどんな感じで暮らしていたのかを調べておくといいでしょう。無論、ヨーロッパ中世といっても、時代も長く場所ごとに色々ある上で、ある程度調べておくと色々応用できます。時代劇なら江戸時代について知っておいて損はありません。
なお、これは応用するための知識で、GM、PLとも「現実の中世/江戸時代」のリアリティを過剰に押しつけると、色々問題が起きえます。「Your glorantha may vary」を忘れずに。


洋ゲーとかで、超ド級の背景設定を持つゲームがあります。
さっきのようにサンプルデータとして使う範囲ならともかく、どう見ても、直接セッションには出てこないようなところまで細かく設定されていたりするゲームがあります。あれは何のためにあるかというと、読み込んで、自由なセッションに生かすためです。それらを読むことで、その世界がどんな風に動いて、どんな人が暮らしているのかを掴み、それによって、色々な状況に対応力できるようにするわけです。
例えば、「クトゥルフの呼び声」等のベーシックロールプレイングで、NPCが、どうでもいい技能を山のように持っているのは、単なるフレイバーというだけではなくて、そこからNPCの、またその世界の人々がどんな風に生活していたかを読み取るためにあるわけです。


そんな風に世界を読み込んだGMの行うセッションは、楽しいものになります(プレイヤーも読み込んでいると、なお楽しい)。


なお、楽にやる方法としては「背景世界を現実、現代にする」という手があります。


中世ファンタジーの村で、どんな人がいて、どんな職業が一般的なのかを把握するのは、かなりの知識が必要ですが、現実の新宿なり秋葉原なりなら、GM、プレイヤー共に、比較的、描写に困らない、というわけです。
なお「俺の知ってる公式設定とGMの解釈が違う!」問題は、現実の場合にも起こりえます。
やっかいなことにファンタジーの設定なら納得できる部分も、現実だと納得できない、という場合も出てきますが、そこはそれ、お互い、広い心で対応しましょう。再び、「Your glorantha may vary」です。設定上の現代とはいえ、TRPGの舞台なのですから、細かいところは違って当然なのです。

展開

自由なセッションを行う場合、「芸術的な罠と仕掛けが張り巡らされたダンジョン」とか「謎が謎を呼ぶ連続殺人事件」とかの、凝ったシナリオをやるのは難しいです。準備してないんだから、当たり前ですね。なので、ある程度、緩い展開になりがちです。


ゆるいとつまらないかというと、そういうものでもありません。xenothがイメージするのは「旅行」です。
旅行にいって、特に波瀾万丈の展開とかなくても、自分で場所を決めて、ルートを決めて、あちこち見て回って帰るだけで楽しいものです。
「プロット」的なものではなく、そういう「楽しさ」を、まず主眼に起きます。


TRPG的に言うなら、プレイヤーに大目標を設定してもらう。そして、その大目標に至るルートを決めてもらう。あとは、それに沿って頑張ってもらい、その過程を描写し、適当に味付けする。
「自分で決めて自分でする旅」というのは、本当に楽しいものです。


国産で、そういうリプレイがあったかなーと記憶を辿っているけど、俺が覚えてる範囲だと「ビヨンド・ローズ・トゥ・ロードでわかる実践RPG入門」が、まさにそれだった気が。イロモノ扱いされがちですが、「王の道を歩いてゆこう!」から始まる旅の記録は、一読、再読、熟読の価値あり。


ローズ・トゥ・ロードは、そんな風に地図を読み解いて想像するのが楽しいゲームです。


http://www.amazon.co.jp/dp/4893691074

結論

自由なセッションは自由なセッションなりの大変さもあるけど、面白い。
自由なセッションをやるためには、GM、PLともに共通認識が必要で、また、それに合わせたシステムを選ぶべきである。