D&Dリプレイ3つ

昨日は、ウェブで公開されているD&Dリプレイが2つ更新されるというD&D日和でした。
4gamer様で連載している「『ダンジョンズ&ドラゴンズ』で遊ぼう」が、第三回更新。

そして岡和田様のエベロンリプレイ『竜の予言に選ばれし者たち』が第二話。

柳田様の「妖侠デイン」も3月18日に第三話を更新したばかり。

合わせて3つのD&Dリプレイがウェブ上にあるわけで、今日はそれらを順に紹介してゆこうと思います。

戦闘という表現〜妖侠デイン〜

まずはGM、PLとも、ベテランかつ珠玉のメンバーが集った『妖侠デイン』。
このシリーズは、デルヴ形式という、短い遭遇(戦闘)を2〜3連続で遊ぶタイプのゲームのリプレイです。
長く深いシナリオではなくて、さっと入れて、ぼこっと殴って、ぱっと終わるタイプのゲームですね。
収録はオンラインセッションで、各セッションとも4時間程度で終わっています。


内容は、レベルの高いキャラクター&ベテランプレイヤー達が、ハイレベルの技能と戦術を駆使して、かっちょいいコンボを敵味方ともに繰り広げる戦闘を描いています。


こう書くと、戦闘メインになる分、ストーリー少なめかな、と、思われるかもしれませんが、今回の3つのリプレイの中で、実はこのデインが、一番ストーリー的に読み応えがあります。


たとえば第三話は、「城へいって悪い吸血鬼を倒す」という簡単な構造ですが、その中で「時間」をテーマにした様々なドラマが生まれます。


時の止まった城の中で永劫にしろしめす“伯爵”。
その息子にして復讐者、長き青春を生きる、ダンピールの吸血鬼狩人オルロック(小太刀右京)。
オルロックの旧友にして、人の時間を生きる老兵バルトロメオ田中天)。
人の若さの盛りを生き、伯爵の口づけを受けた乙女戦士のミカ(瀬尾アサコ)。
人と異なる妖精の時間を生きる、妖侠デイン(吉井徹)。


どうです。もう、いかにもドラマが生まれそうな組み合わせでしょ?
その期待は裏切られません。
リプレイのほとんどは戦闘なのですが、その際の攻撃の選択から、かけあい、ロールプレイの全てが共鳴して、ドラマがどんどん生まれるんですね。
伯爵の誘惑と闘いながら、ミカが二刀を振るえば、
オルロックは、父を狩るために身につけた技の数々を繰り出す。
デインは、妖精ならではの予測不可能な攻撃で敵をかき乱し、
バルトロメオが、老兵の機知を発揮してサポートする。


そんな中で、ファンブル振ったりクリティカル出したりして、ダイス目を設定のせいにしつつ(笑)(バルトロメオ:「これが……老いか。“伯爵”、俺もお前の若さが欲しい」)、ドラマティックなストーリーが繰り広げられます。
そして明かされる謎!


これはゲームが始まってからのプレイヤー、GMの腕もさることながら、シナリオテーマとキャラ設定とキャラデータが、きっちり合致してるのがミソでしょう。このあたりはFEAR系のハンドアウトで培われた、事前に物語の枠組みを提示し、摺り合わせるテクニックではないかと思います。


戦闘とロールプレイは背反するものじゃなくて、相乗するものなのだなぁと思えること請け合いの、大変に楽しいリプレイです。

D&Dってどんなゲーム?〜『ダンジョンズ&ドラゴンズ』で遊ぼう〜

「デイン」が高レベル&ベテランプレイヤーの名人芸なのに対し、「D&Dってどんなゲーム?」は、名前の通り、はじめてD&Dに触れる人への紹介のリプレイです。


TRPGはじめて、というマフィア梶田さんと、イラストレーターのhounoriさんらの新米プレイヤーをメインにすえて、キャラメイクから、依頼、はじめてのダンジョンまでを描いています。


こちらのリプレイの一番の特徴はゲーム写真の数々です。
D&Dボードゲームの戦闘は、その場でいて自分でコマを動かしてるとわかりやすいんですが、わかりやすくリプレイに起こそうとすると大変なんですよね。
D&Dってどんなゲーム?」では、綺麗なミニチュアやゲームボード、それをのぞきこんで動かすプレイヤーの楽しそうな顔が見える写真がふんだんに使われていて、「あ、こういうゲームなのね!」というのが、すごくよくわかる作りになっています。


特に第三回の記事では、戦闘の一部を動画で解説していて、これが画期的にわかりやすいだけでなく、見てて俺もミニチュア握ってゲームしたくなります。
D&Dであると便利な小物、マーカーなんかも、言葉の説明だけだとよくわからないんですが、こう使うんだよ、という写真、動画があるおかげで、うんうんとうなずけます。


卓の上の情報が写真なら、ゲーム世界の内側の情報は、イラストレイターのhounoriさんが担当しています。これがまた、かわいくてキャラが立ってていいんですよ。


冒険本編は、第二回、第三回に分けて、プレイヤーのマフィア梶田さん視点の冒険紹介、GMの瀬尾アサコさんの視点、hounoriさんのレポート漫画と、都合3つの視点から別々に書かれていて、これが色々面白い。


例えば、新米冒険者が強大なるホワイトドラゴンと、うっかり出くわして、必死で戦闘回避の説得に走った時があるんですが、盗賊のマフィアさんは、そこでこっそり足元の宝石を盗みます。
マフィアさん視点だと、楽しそうに書いてあるんですが、hounoriさん視点だと、すごく心配そうに書いてあって、微笑ましい、とか(笑)
マフィアさんもhounoriさんも書いてますが、そういうのがTRPGの楽しさですよね。

現代世界とファンタジー世界の相克〜竜の予言に選ばれし者たち〜

さて、最後は、エベロン世界を舞台にしたリプレイの「竜の予言に選ばれし者たち」です。


「竜の予言に選ばれし者たち」は、この3つの中では、もっともページ数が多いリプレイです。
その分、多くの要素が入っています。
まずは、D&Dの紹介。初心者プレイヤーさんが多く紹介しており、実際のルールやプレイングを細かく紹介しております。
紹介以外では、エベロンという世界設定を生かした壮大なキャンペーンストーリーがあります。


エベロンという世界は、D&D的なファンタジーに現代的なテーマを取り込んだ意欲的な世界であり、そこに、ゲームと現代性、ルドロジーを研究されている岡和田様と高橋様が参加されるわけですから、これは期待が持てるというものです。


同じストーリー志向の「デイン」が、短く密度の高いストーリー展開であるのに対し、「竜の予言に選ばれし者たち」は、D&Dの北米での発展から、エベロンという設定が生まれた経緯、神話と背景世界の解説まで、非常に広い視点を紹介しながらストーリーが進んでゆきます。


第一話と第二話で、ひとつのシナリオが完結しましたが、これが大変に興味深い結末になっています。
リプレイの性質上ネタバレを含むので、気にされないか本編を読んだ方のみ以下をどうぞ。
今回のストーリーをxenothなりにまとめると、以下のようになります。

  1. プレイヤーたちは大陸鉄道敷設の際に行方不明になった「トレイルブレイザー」の救出に向かった。
  2. トレイルブレイザーは、現地のコボルドたちに監禁されていた。
  3. コボルドを操っていたのは、「下たる竜」カイバーを崇める「地下竜教団」の僧侶だった。
  4. PCたちはカイバーの僧侶を倒し、地下竜教団に従わされていた生き残りのコボルドを、(PCの宗教である)シルバーフレイムに改宗させる。
  5. PC達は、「下たる竜」カイバーと「中なる竜」エベロン、さらなる勢力との戦いに巻き込まれることになる(竜の予言)。

さてさて、これは大変に面白い構図です。
普通のファンタジー世界だったら、冒険者コボルドを蹴散らすのは、暴れん坊将軍や助さん格さんが、悪代官の手下を蹴散らすようなもので、あんまし深く考える必要はないわけです。殺さずに改宗で終わらせるのはクレバーなプレイに入るでしょう。


しかし、これはエベロンが舞台です。
エベロンの世界では、コボルドは「邪悪な種族」ではなく、れっきとした人権を持つ人類の一員です。そのことは第一話のリプレイでも岡和田様が書かれています。
地下竜教団以前にコボルド達が持つ「ヴォルの血」という宗教は異質であっても必ずしも邪悪ではないと、これまたリプレイ中にあります。


つまりどういうことかというと、大国のエージェントが鉄道を伸ばし、現地民を武力制圧して、改宗させたというわけですね。
これは、帝国主義の侵出と植民地化、文化侵略のプロセスそのものです。


つまり、このシナリオは、一見、冒険者が悪の教団を倒す勧善懲悪なシナリオに見えて、視点をひとつ変えると「大国が途上国を植民地化し、思想改造する」という歴史の悲劇の一角を担うという暗いお話であるという二重構造を持っているわけです。


背景となる竜神の対立は、北半球欧米文化先進国vs南半球途上国の南北問題や、東側共産圏vs西側資本主義国の東西問題、あるいは世界宗教の対立などになぞらえることができるでしょう。


果たして、この先、キャンペーンはどのように展開するのか。
文化的に虐殺されたコボルド達に救済はあるのか。
それとも帝国主義の冷たい歯車が世界を支配してゆくのか。
その中でPC達は、何を見るのか?
先の展開が待たれるところです。*1


さて、このようにセッションに民族対立などの難しい問題を持ち込むのは、非常に危険であります。
現実において、なかなか解決しきれず意見が分かれるような問題をTRPGに放り込むことは「ゲームはゲーム」という枠におさまりきらず、セッションの崩壊や、セッションを超えた対立につながりかねないからです。


もちろん、それを意識した上で、慎重に、誠実に、そうしたプレイをすることも、TRPGのひとつの可能性です。


無責任に投げ出すことが許されない、公式リプレイの場で岡和田様が、それをしようという大きな挑戦に、xenothは敬意を表するものです*2

*1:もちろん、これがxenothの勘違いした深読みである可能性もあります。ただもしそうであるなら、嬉しい誤解です。岡和田様は、TRPGの思想性を強調するあまり、時折「単なる暇つぶしのためのゲーム」への評価が低いように思える時があるからです。深く考えない娯楽作品にも良さがあり、逆に社会性を重視したつもりで中途半端に扱うのが無責任かつ危険である、という点も理解されていることがわかれば、xenothは不明を恥じることになるでしょう。

*2:ひとつの救いがあるとすれば、エベロンが現代性もありつつ神も奇跡もあるファンタジー世界であることです。これで舞台が現実世界だったら、もっと救いがなく、また安易な展開にすることが許されないことになります。たとえば上記の竜の予言を民族問題、コボルドチェチェンゲリラ等に入れ替えてみれば、その危険性がよくわかるでしょう。