人と異なるもののロールプレイ
短いツッコミ
AGS様のサイトで更新がありました。
“人とは異なるもの”はロールプレイ可能?――『スケイブンの書』における可能性: Analog Game Studies
“人とは異なるもの”を、どうロールプレイするかはTRPGにおいて、大変に面白い命題です。
xenothも、人間と異なるキャラは大好きなので、それについて思うことを、の前に短いツッコミを。
ウォーハンマーのサプリメントである『スケイブンの書』に出てくるネズミ人間が、非人間的で邪悪で感情移入が難しいのは、それらが基本的に、倒すべき敵役だからです。GMが出す敵としての設定のサプリメントでなのですね。
その上で、そういう挑戦がウェルカムなプレイヤー向けに、PCとしてプレイするためのルールもついていますが、上記記事では、そのあたりが触れられていないので誤解を招くかもしれません。
未知なる存在のロールプレイ
さて、AGS様の記事では「人間と違う存在をロールプレイすること」の難しさについて書かれていますが、xenothの意見は少し違います。
実際問題、「人間以外のキャラ」をロールプレイしたことのある人は多いと思います。
で、「アルシャード」でヴァルキリー(戦闘用アンドロイド)やるのが難しいかというと、他のクラスに比べて必ずしもそうではない。
ファンタジーならエルフやドワーフのような異種族。SF系ならアンドロイドやクローン。
どれも馴染み深いものです。
人類と違う生まれ育ちを持ち、思想も常識も全く異なる異種族を、わりあい簡単にロールプレイでいるのは何故でしょうか?
物語の記憶
簡単に言えば、そこには物語の記憶があるからです。
xenothは、人間並の知性を持つアンドロイドに出会ったことはありません。ですから厳密な意味で、アンドロイドが何を考えて、どう生きるかは全くわかりません。
でも、長門有希*1ならよく知っています。
ですから、長門に多少のアレンジを加えることで、アンドロイドのキャラを簡単にロールプレイすることができます。
卓の他の人も長門や、その他のアンドロイドの「物語の記憶」を共有している関係で、そうしたロールプレイが通じます。
そうはいっても、それは、単なる真似、パクりであって、本当のロールプレイではないのではないか?
そういう疑問は当然でてくるでしょう。
もちろんそうなのですが、しかし、そこには一個落とし穴があります。
非人間でなくても、ロールプレイにおいて「物語の記憶」が大きな役割を果たしているということです。
たとえばxenothは現役女子高生の知人はおりませんし、話したことも、ずいぶんありません。彼女らの常識や考え方について、実際のところはまるで知りません。
でも、「ダブルクロス」で、女子高生キャラをロールプレイするには不自由しない。
この時、使っているのは「女子高生という物語の記憶」に他なりません。
現実の女子高生は知らないけど、涼宮ハルヒや泉こなたなら、よく知っているぜ、というわけです*2。
ほとんどの人は、自分と異なる年齢や性別、職業についてほとんど知りません。
あるいは「危機において超能力に覚醒し、日常に別れを告げた経験」もないでしょう。
「ファンタジー世界の冒険者」だってそうです。
いわゆる「冒険者」が、どう暮らして、どう生きて、何を考えているかを、本気で深く掘り下げて考えようとすると、大変に難しいことはわかるでしょう。
知らないのに、わからないのに、それっぽいロールプレイが成立していたら、それは「物語の記憶」によるものです。
TRPGのロールプレイのほとんどは、「物語の記憶」と、その共有で出来ています。
それは何も、非人間キャラに限らないのです。*3
プラスアルファから始めよう
「物語の記憶」に基づいてロールプレイをする際に、なんらかの自分なりの工夫を付け加えるのは楽しいことです。
重要なのは、「工夫」も大切だけど「既存の物語」も大切という一点です。
自分なりのロールプレイを大切にしようとする時、「物語の真似はダメ」とか「工夫がないのはダメ」といった方向に行きがちです。
しかし、先に書いた通り、そもそもTRPGのロールプレイは、「物語の記憶の共有」を前提としており、それなしでは成り立たないのです。
もう一つの落とし穴として「ありがちなキャラ」を否定するあまり「非常識であればあるほど優れている」というものがあります。
キャラクターを掘り下げることと「奇を衒った変なキャラ」は全く別物ですから、これも錯覚です。
また非常識すぎるキャラで、他のプレイヤーに何を考えて何をしたいのか理解されない場合、セッションがうまくいきません。
そうした点に注意した上で、「人と異なるもの」というのは、ロールプレイの掘り下げの一歩として、いい入門点となります。
ここまで書いた通り、「普通の一般人」においてもロールプレイをじっくり掘り下げる余地は大いにあるのですが、とっかかりが難しい。
これが「アンドロイド」とかなら、たとえば「感情が薄く合理性を重んじる」とか「作られた存在で、創造主に忠誠を誓う」といった人間と違う部分が、わかりやすい形で提示されているわけで、そこを起点に考えることができるからです。
そうした一つの点を、どう表現するか、そのキャラクターは、そういう部分についてどう考えているかを考えて掘り下げてみることが、よい+αに通じることでしょう。
もう一つの手としては、色々な「物語の記憶」を使うことです。
長門有希しか知らなかったら、「長門の真似」ロールプレイにしかできませんが、様々な物語の様々なアンドロイドに触れることで、自分なりのアンドロイド像を模索することができます。
お勧めTRPG
鈴木様は、そうしたロールプレイのきっかけとして「スケイブンの書」をあげております。
xenothも、それに習って一つ上げるとすると「異界戦記カオスフレア」がお勧めになります*4。
「異界戦記カオスフレア」は、ファンタジー世界「オリジン」を舞台に、様々な異世界から集まった無数のヒーロー達が共闘するゲームです。
戦士や魔法使い、召喚された現代人、ロボットパイロットから、武侠にサイボーグ、ドラゴンに魔神、果ては番長やらメイドまでを、自分のキャラクターとして冒険できます。
特に、「テオス」と呼ばれる星間国家は、様々な面白い設定を持つ異星人でいっぱいで、非人間キャラのとっかかりにお勧めです。
カオスフレアが、ロールプレイの掘り下げに向くのは、以下の3点によります。
「物語の記憶」がはっきりしていること。
「カオスフレア」には様々な異文化、異種族が登場しますが、わかりやすいサンプルキャラや、参考文献などのイメージソースの提示で、ロールプレイするのに困りません。
このサンプルキャラなら、こういうことができるんだな、というのが、はっきりしているわけです。
「ガンダムのパイロット」みたいなロールプレイ*5をすればいいんだな、とかですね。
ロールプレイに物語の記憶は必須であり、とっかかりがわかりやすいことは極めて大切なことです。
「クロスオーバー物」であること。
カオスフレアは、様々な異文化のヒーロー同士が合流して共闘するゲームです。
たとえば、ガンダムのパイロットが、ドラゴンの魔術師に出会う。
出会って二人で話し合うことで、自然と互いの文化や常識の違いに気づくわけです。
これが、先にも書いたロールプレイの掘り下げの「起点」となるわけですね。
なお「文化や常識の違い」と書くと固いですが、ガンダムとドラゴンが出会うところなんて、想像するだけでツッコミどころ満載なわけです。
ガンダムは竜と一緒に出てこないわけですから「物語の記憶」が矛盾するわけですね。
そうした矛盾にプレイヤー同士で互いにツッコミを入れて大笑いしつつ、それが段々、単なるギャグでなくなってくる。
そこに「新たな物語」「新たなリアリティ」が生まれる。そこに感動と面白さがあるわけです*6。
システムと連動していること。
『カオスフレア』は、かっこいいロールプレイをすることで、「フレア」を獲得して使ってゆくゲームです。フレアを取るためには、積極的に他のキャラと絡む必要があります。
そこでクローズアップされるのが先の「文化や常識の違い」へのツッコミと克服です。
普通にシステムを回そうとすると、自然とキャラが掘り下げられるように出来ているわけです。
また、各種キャラの特殊能力が、フレーバー、性能ともに、強く差別化されており、ロボならロボらしく、竜なら竜らしく戦闘できるようになっています。
その結果、キャラメイクの時の技能の取り方や、戦闘時のかけあいやロールプレイに至るまで、自分のキャラについて掘り下げるきっかけとなるわけです。
キャラクターが全員「カオスフレア」と呼ばれる英雄存在であるという設定も重要です。
英雄というと縛りがきついように思えるかもしれませんが、ここで言う英雄は、「互いに協力して悪に立ち向かう」くらいの話で、ほとんどのゲームで存在する前提です。
キャラクターが、プレイしたくなるキャラクター、一緒に遊びたくなるキャラクターというのは重要です。
どれほど魅力的な異文化を持っていても、ひとりで孤立したらロールプレイの掘り下げはできませんし、何よりプレイしてお互いつまらないわけで、重要な設定といえるでしょう。
まとめ
- 「自分以外の存在」をロールプレイするのは、本来、極めて難しい。
- そこを埋めるのが共有された「物語の記憶」である。
- ロールプレイを掘り下げるなら、「物語の記憶」を否定するのではなく、意識した上で、付け加えるものを探すのがよい。
*1:「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズに登場する対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。
*2:書いててなんか悲しくなったのは気のせいです。
*3:実のところ、現実の私たちが、自分を認識するのも、「物語の記憶」が大きな役割を果たしたりしています。
*4:単純にxenothがよく知っているゲームの中で、一番最初に思いついたものです。他にもたくさんあると思いますし、それらは向かないという意味ではありません。
*5:無論、どのガンダム? と言い出すともちろん色々あるわけですが、そういうのも含めて、アレだねアレという理解がしやすい。
*6:無論、ロボとドラゴンを喧嘩させたら面白いと考えた人は既に沢山います。色々な作品で色々な形で、矛盾が解決されてきたわけで、厳密には「新しい物語」とは言えないでしょう。でも、あるセッションの中で、あるガンダムと、ある竜が出会い、仲良くなる過程を、プレイヤー全員で考えてゆくことで、その卓だけの小さなオリジナリティが生まれるとも言えます。