『DBA』とミニュチュアウォーゲーム

超お手軽&本格ミニチュアウォーゲーム『DBA』

今回のAGSの更新は、こちら。
DBA(De Bellis Antiquitatis):上古の戦場にようこそ!: Analog Game Studies


蔵原氏による、ミニチュアウォーゲーム『DBA』のプレイレポートとなります。

『DBA』って、どんなゲーム?

http://www.fanaticus.org/DBA/guides/index.html
こちらが『DBA』のページです。基本ルールは冊子形態の商品ですが、Unofficial Guide*1も充実しており、データ類を除いたルールが参照できるため、xenothはそちらを拝見しました。


ミニチュアウォーゲームというのは、各人がペイントした、ミニチュアフィギュアを持ち寄って軍団を作り戦争ゲームをするもので、『ウォーハンマーRPG』の元となった、『ウォーハンマー』シリーズ*2や、トレーディング・フィギュア形式で一世を風靡した『メイジナイト』、日本では、食玩の『ワールド・タンク・ミュージアム』のフィギュアを使う『ワールド・タンク・バトル』などがあります。


百聞は一見にしかずですね。このへんをどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=Zz-2jWclun4
http://www.youtube.com/results?search_query=DBA+wargaming


『DBA』は、古代から16世紀までの、銃砲が主体となる以前の戦争を遊ぶゲームで、再現範囲が広いことから分かる通り、抽象度が高く、その分、大変に軽いシステムです。


どの軍であっても、基本、駒は12ユニット*3。90cm程度のボードに地形を置いて、その中でプレイします。1プレイは1〜2時間程度。でかいテーブルとかなくてもちゃぶ台くらいの大きさで遊べるのもありがたいですね。


抽象度が高すぎると、あんまり戦術や作戦の醍醐味がないんじゃないかと思われるかもしれませんが、さにあらず。そこは『DBA』がよく出来ている点です。シンプルな移動ルールと戦闘ルールで、そのあたりをうまく表現しています。


各プレイヤーは、移動ポイントを消費して駒を動かすわけですが、この時、1ポイントで、1個のユニットを、わりあい自由に長距離動かすことができます。同じ1ポイントで隊列を組んだユニット(並んでいるユニット)をまとめて動かすことができますが、こちらは動かせる方向等に制限がかかります。


敵味方の駒が隣接すると、攻撃が可能になります。攻撃の際は、双方がサイコロを1個振って攻撃力を出し、それに修正を入れたもの同士を比較して結果を出します。
修正にはユニットの兵科同士の相性(騎兵は歩兵に強いので+4等)に加え、攻撃方向、包囲状態に関する修正等があります。
例えば、歩兵同士が正面から隣接してる場合は、五分五分の勝負です。
側面や背面から攻撃されると不利な修正がつき、側面や背面に同時に隣接されると、その分どんどん修正が溜まっていくわけです*4


そんな風に相手に包囲されないためには、整然と隊列を組んで進むのが有効です。
一方で、整然と隊列を組んで進もうとしても、間に地形がある時は迂回したり、移動が遅くなったりします。歩兵は森を進めますが、騎馬は進みにくくなる等の問題もあります。
また、まっすぐ行進してくるのは相手からすれば、動きが読みやすくなるわけで、1駒を自由に動かして、側面や背面をついたり、相手を分断したりする戦術が有効になります。


そのあたりが、思案のしどころです。

古代っぽさ

これだけだと基本的な陸戦ゲームですが、『DBA』の面白いところは、それに加えて、いかにも古代戦らしい要素があることです。


先ほど、駒の移動について書きましたが、肝心の移動力は、毎回、サイコロを振って1D6で決めます。えらく思い切ったデザインです(笑)
毎回1が出て、1個/1隊しか動かせなかったら、えらい悲惨ですし、逆に6が出れば、窮地からも逆転できるかもしれない。
ダイスの目で、せっかく考えた計画が台無しになることも多いでしょう*5。。


このあたりは兵站や情報伝達が未熟で、気候や士気に影響されやすい古代戦っぽくありますし、隊単位での行動を重視させる意味もあります。また抽象度の高いゲームにありがちな、固定したゲーム展開を打ち破るランダム性としても面白そうです。
何よりダイス振った時の悲鳴が聞こえそうで楽しそうですよね!


もう一つの点は、将軍駒です。
古代戦なので、無線とか双眼鏡とかそうした便利なものはありません。
指揮は将軍が目で見て、大声で(あるいは旗を振ったり太鼓や銅鑼を叩いたりして)直接、部隊に伝えなければなりません。
『DBA』では将軍駒から見えない位置にいたり、離れすぎてたりする駒は、移動の際に余計に1ポイントかかります。1D6の移動力に対して、移動が1ポイントか2ポイントかで、大きく違うのは言うまでもありません。
そのために将軍もある程度、前線に出ざるを得ません。将軍の生死は勝利条件に関わり、また、将軍死亡の場合、それ以降の全ての移動に修正がかかるため、将軍をどう動かすか、どう守るか、どう狙うかが重要な点となります。


まとめると、軽いルールで、古代戦を短時間に遊べ、戦術の楽しみがありつつ、ある程度のランダム性もあり、「おまえの負けだな!」「うるさい! ダイス目に負けただけだ!」「なら、もう1戦やるか?」「おう、当たり前だ! 今度こそ我がマケドニアファランクスの錆びにしてくれる!」といった感じのゲームデザインですね*6

再現性

『DBA』は、幅広い歴史をカバーする抽象性の高いゲームであるため、純粋な戦史の再現性は、必ずしも高くありません。
どんな軍でも12ユニットですし、時代が違っても兵科が同じなら同じ能力です。
1ターンは約15分、1ユニットは250〜300名とありますが、「だけど抽象性の高いゲームだから、ぶっちゃけ、あんまり気にしないほうがいいよ。1ターンは1ターン、1ユニットは1ユニットってことでよろしく」とUnoffical Guideにもありました(笑)。


各時代の違いは、基本的に兵科構成で決まります*7
たとえば、今回のレポートにあったヌビア軍は、「Warband*3,Bows*6,Psiloi*3」の構成です。蔵原氏の記事では「全部歩兵」とまとめられていますが、より細かく言うと、蛮人3ユニット、弓兵6ユニット、軽装兵*83ユニットの、3兵科で構成されており、それぞれの使い分けが試されます。
対するエジプト新王国時代は、「LightChariot*4,Blade*1,Spear*4,Bow*2,Psiloi*1」です。軽戦車、剣兵、槍兵、弓兵、軽装兵といった陣営。蔵原氏のレポートにある通り、虎の子の軽戦車をどう生かすかが戦術の鍵となるでしょう。


その他のデータとしては、プレイ可能な年代、同時代で実際に敵対した部隊、得意地形等々が丁寧にまとめられており、見ているだけで楽しくなってくる感じで、フレーバー的な意味での再現性は重視しています。
ゲーム的に意味があるのは、兵科構成の他に、「攻撃性」と「得意地形」があります。
「攻撃性」は、史実で外国へ侵略していった部隊ほど高くなっていきます。攻撃性に1D6足して大きいほうが、侵略側=先手になります。


一方、防御側になったほうは、「得意地形」に沿って、ボードの地形を設定することができます。史実で、山がちなところで活躍した軍隊なら、「得意地形」が丘で、ボードの好きなところに丘を置ける、といった具合です。


最小限のルールで、大変うまいこと、「らしさ」を出している感じですね。

ゲームは何の役に立つか?

 ところで紛争シミュレーションって、世の中にとっては一体何の役に立つんでしょうか?

蔵原氏の記事をしめくくる質問ですが、xenothなりの答えは以下の通りです。
「紛争シミュレーションゲームは、楽しく遊ぶということで、世の中の役に立つ」
です。


ゲームは楽しく遊ぶことに価値があり、意味があります。
他人に迷惑をかけず充実した人生を歩めるというのは、個人にとっても社会にとっても大変に素晴らしく価値があることです。


もちろん、それにとどまらない場合もあります。蔵原氏が述べている、歴史的なセンスを磨くこともその一つです。
ただし分かると思いますが、シミュレーションゲームを1つか2つ遊んだだけで、いきなり歴史に目が開かれ、現実に応用できる、なんてことはありません。当たり前の話ですね。


もしシミュレーションゲームを長い間やり続け、ゲームを楽しむために、あるいはゲームに触発されて、様々な歴史資料に触れて読み込むのであれば、その経験は確かに歴史センスを磨く役には立つでしょう。
ただし、そのためには、色々なゲームを沢山遊ぶ必要があります。つまらなかったら途中でやめるでしょう。また人間が創造的な仕事で、もっとも良い成果を出すのは、楽しんで遊んでいる時でもあります。


ですから、まず「楽しんで遊ぶこと」が、最重要と考える次第です。


公式サイトの、「『DBA』を始めるに当たって」では、こんな感じに書いてあります。

どんな時代を選んだらいいか、大変そうだって? 大丈夫。別に深い知識はいらない。
たとえば、ラッセル・クロウの『グラディエーター』は見た? 「私の合図で……地獄を放て!」のシーンとかどうよ?
あれが好きなら、初期帝政ローマがいいだろう。初期ゲルマンでもいい。あるいは、両方のフィギュアを揃えてペイントすれば、『グラディエーター』のシーンが再現できるじゃない!
他にもインスピレーションになるのは、HBO/BBCの海外ドラマ『ROME』、オリバー・ストーンの『アレキサンダー』。他にも『300』や『キングダム・オブ・ヘブン』なんかがあるだろう。もちろん、映画なので全部が全部歴史的な考証が出来てるわけじゃないけど、想像力に火をつけるには十分だ。
映画だけがインスピレーションの元じゃない。バーナード・コーンウェル*9やコリーン マクロウ*10等の本も読む価値があるだろう。
(xenoth訳。適宜要約)

『DBA』が歴史的に深い広がりを持つゲームである一方で、一番最初に、誰でも知ってそうな有名作品から、わかりやすいイメージと楽しさを持ってくるこうした姿勢が大変に大切であると思う次第です。

補記1

■ 紛争シミュレーション(Conflict Simulation)

 日本では「兵棋演習」とも「ウォーゲーム」ともいわれる紛争シミュレーションは、古くから「将棋」や「チェス」として親しまれ、今では各国の大学で歴史教育、社会研究の材料として使われています。今回のようなミニチュアゲームを体験された方々の中にはヘルムート・フォン・モルトケ、ハーバート・G・ウェルズ、アイザック・アシモフといった人々もいるのだそうです。

ヘルムート・フォン・モルトケはドイツの軍人で、陸軍参謀総長として連戦連勝し、ドイツ統一に大きく貢献しました。
そのモルトケは参謀指揮能力の練成用に作られた図上演習=紛争シミュレーションに大きな価値を見いだし、参謀総長となった以降は、教育用具としての地位を確立しました。


著名なSF作家兼科学史家のアシモフも、『アシモフ自伝?』の中で、フレッチャー・プラットと海戦ゲームを遊んだとあるそうです*11


一点気になった点として。ハーバート・ジョージ・ウェルズについて。
ウェルズは、SFの父と呼ばれ、SF黎明期に『宇宙戦争』(スピルバーグの映画も名作)や『タイムマシン』といった重要な作品を書いた他にも、歴史家、社会研究家として、人類の過去と現在を分析し、未来の行く末を案じました。


そのウェルズのもう一つの業績が、ウォーゲームデザインです。
『フロア・ゲームズ』『リトル・ウォーズ』で、ウェルズは、ミニチュア駒を布陣する形のウォーゲームルールを出版しています。
軍隊などでの演習目的ではなく、趣味で陸戦をシミュレートした中では、もっとも初期に刊行、公開された作品であり、ウェルズを近代ウォーゲームの始祖とする見方もあります。*12


※陸戦と断りましたが、海戦のほうでは、現在も出版され続け、艦艇の基礎情報として非常に高い評価を持つ『ジェーン年鑑』の設立者、フレッド・T・ジェーンが海戦ウォーゲーマー/デザイナーで、『ジェーン年鑑』の艦船データは、元々、自作ゲーム用のデータ集でもあったという恐るべき事実が存在します*13


そんなわけで、「ウェルズも」ウォーゲームをプレイしたというのは、近代ウォーゲームの始祖に対して、ちょっと控え目すぎるかな、と、思ったのでした。

補記2

対談感想その2 - xenothの日記
こちらのWHシナリオの訳抜けについてですが、AGSにメールを出したところ、岡和田氏から返信が届きました。
訳抜け他について、丁寧なお詫びをいただき、そこを含めた改訳を提出されているそうで、近いうちに反映されるそうです。
ありがたいことです。


そのメールで、ただしHJの企画であるため、HJのページ上でのエラッタ報告フォームなどに誘導いただきました。これはこちらの思慮が足りない点でした。
次回からはそうしようと思います。


同じメールでxenothのサイトにおける感想も紹介したところ、そちらも見ていただけたようでした。
そういえば、対談のページで、「佐藤洋平」→「佐脇洋平」が直っておりますね。

※読者の方からメールでご指摘をいただき、「佐藤洋平」を「佐脇洋平」に修正させていただきました。御迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした。2010/12/29

ただ、すぐそばの発売元がPenguin booksである、という点は、変更がないようです。
厳密には間違いではないのですが、誤解を誘う記述になっているとは思うので、直したほうが良いのではないかな、と、思っております。

*1:http://www.wadbag.com/DBAGuide/default.asp

*2:http://jp.games-workshop.com/WH/default.htm

*3:1ユニットを2、3駒で表現する場合もあり

*4:この説明では色々省略してます。射撃戦や後方支援、dismount(下馬/降車)のルール等もあります。

*5:ただしxenothは実際にプレイしてないので予断です。

*6:Unofficial Guideにもそんな感じのことが書いてあります。

*7:ルールではありませんが、自分で時代にあった駒を選んで塗って使うことが、一番大きな違いでしょうね。

*8:Psiloiってなんて訳すのが良いんでしょうね。ご指導いただけるとありがたいです。

*9:『炎の英雄シャープ』シリーズ、『小説アーサー王』他。

*10:トロイアの歌―ギリシア神話物語』他

*11:http://homepage3.nifty.com/toshi51/rpg01.html

*12:http://www.gutenberg.org/files/3691/3691-h/3691-h.htm

*13:だいたいあってる、はず。自作ゲームとジェーン氏の写真はこちら。 http://www.janes.com/media/jawa100/ftjane.html