TRPGは絶滅したか?

というかTRPGブームってなんだったのか?

TRPG栄光の時代

今から14年くらい前の話なのだが、ロード・オブ・リングなんかでおなじみのあの世界観を、会話のやりとりで遊ぶゲームとして、TRPGというものがあった。当時、D&D、T&Tなどのアメリカ製のボックスゲームに加えて、国産のTRPGがあちこちから発売されて、そりゃもう賑やかな一時代があったのだった。

http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20080216/1203133061


些細なツッコミはさておき*1
80年代後半から90年代にかけて、TRPGブームの時代、というのがありました。
で、その頃に比べると、現在のTRPGの市場は、めっきり小さくなりました。
さてさて、それは、なぜか?
ぶっちゃけると、初期TRPGと、最近売ってるTRPGでは、最近のほうが性能がいいです。技術というのは進歩しております。マニア向けの性能の良さ、というだけではなくて、初めてプレイする人向けのシステムやガイド、サポートなんかも、より親切になっています*2


じゃぁ、なんで、現在、TRPGはブームの頃に比べて売れていないのか?
ちょっと見てみましょう。

TRPGブームとは

80年代のTRPGブームというのは、ぶっちゃけ、ファンタジーブームであり、コンピュータRPGブームでした。


ウィザードリィ」でも「ドラクエ」でも「ドルアーガの塔」でもいいんですが、成長中のコンピュータゲームと「ファンタジー」という世界観は、結びついて相乗しながら「新しいもの」として広く認知されました。
「ファンタジー」が、かっこよかった時代ですね。
で、日本のコンピュータRPGにおけるファンタジーというのは、ほとんどすべてD&Dと呼ばれるTRPGが源流でした。
当時のゲーム、小説、アニメ、漫画に触れていて、その元ネタをちょっとでも探ろうとすれば、もれなく「D&D」につきあたったわけです*3
もちろん、D&Dにも元ネタはあるわけで、D&Dが全てのファンタジーを作ったわけじゃないんですが、やっぱり圧倒的な部分がD&Dの孫引きであり、D&Dこそが「本家本元ファンタジー」と見なされていました。


作る側やマニア層に「ファンタジーを押さえるならD&Dを見ておかないと」というのがあり、そこから当然、マニアでない層にも、D&Dから始まるファンタジーは普及していきます。


つまり、TRPGブームというのは、元々、ファンタジーブームの関連商品だ、という言い方ができるわけです*4

TRPGとキャラクタービジネス

ルール(システムや性能)が高度化すると、やはりついて行けないユーザーは増えていく。そうなると、頭打ちどころかユーザー離れというマイナスへの逆転現象が起きてしまう。


このため、TRPGは当初の「ルールブックを売る商売」から離れて、「ルールブックを必要とする世界観をベースにしたスピンオフ商品を売る商売」に発展を始める。


同時に、高度化しすぎてプレイできない一般/初心者ビギナーを、その「世界観」に繋ぎ止めつつ、TRPGを実際には遊んでいないのに遊んでいるような気分にさせる、


 4)リプレイ


という商品が登場する。

というわけで、これは逆です。
マニア化して行き詰まったジャンルの商品から、いきなり大ヒットスピンオフが生まれるほど、世の中、甘くありません。TRPGのブームそれ自体が、「ファンタジーブーム」という世界観が売れていたことのスピンオフなわけです。


だいたい日本のTRPG人気に直接的に火をつけたのは、コンプティーク誌に連載された「ロードス島戦記」リプレイです。出渕裕ディードリットのイラストこそが全ての根底にあるわけです。
てなわけで、TRPGの人気と、キャラクタービジネス的な部分は、最初から切っても切れない関係にあります。

ここまでの説明には、「人間のゲームマスターが処理してきた戦闘の解決を、コンピュータが代行してくれるコンピュータRPG が、TRPGより広く普及したことでTRPGの歴史的役目が終わった」という視点が抜け落ちているので、TRPGの衰退の原因を販売形態と大人の事情だけに求めて説明するのには無理がある。

これも変で、そもそも日本のTRPG人気は、ドラクエ人気と足並みを揃えています。コンピュータRPGが普及する前は、TRPGがたくさん売れていた、とか、コンピュータRPGが普及したから売れなくなった、という事実はありません。


発祥元のアメリカでもそうですね。ウィザードリィやらウルティマやらが発達してTRPGを過去に葬ったかというと、そんなことはない。コンピュータRPGがTRPGの代替を目指して作られた、というのは確かですが、結果として両者の面白さは、代替可能なものではなかった、ということですね。


例えば「野球ゲーム」と「プロ野球」は、互いにパイを食い合うものではなく、むしろプロ野球が人気の時のほうが野球ゲームが売れるでしょう。TRPGと、ドラクエも、そんな関係でした。

TRPGの衰退

さてさて、ファンタジーという世界観が、一般化し、また、D&D起源でない、様々なファンタジー世界、文法が作られるに連れ、TRPGはその特権性を失います。ブームの終焉です。

  1. 既存マニアへの依存を念頭に置いた商売は頭打ちになるのが早い
  2. 性能の高度化は時にビギナーユーザーを引きはがしてしまい、市場の縮退を早めることがある
  3. 既存マニアは購買意欲&能力は高いが、既存マニアの購買能力をアテにしすぎるのは危険(消費者への商品供給が多すぎると、購買意欲のあるマニアは疲弊してしまう)
  4. 良いものを作ったから必ず売れるわけではない
  5. うまくいったやり方への依存が高すぎるのは危険
  6. 売れ続ける構造(収益があがる仕組み)を維持しなければ、ジャンルとしての衰退からは逃れられない

ブームという追い風を失った結果、TRPGは、こうした構造問題に直面し、大きな打撃を受けることになります。
俗に言うTRPG冬の時代です。

現在と未来

そこからTRPGは、上記の構造問題と真摯に向かい合い、少しずつ、しかし着実に成長しながら現在の位置まで来ました。


だから、私は、今のTRPG市場こそが、ファンタジーバブルの影響のない、等身大のTRPGの市場だと思っています*5
もちろん、作り手と受け手の努力が続く限り、これからもTRPG層は拡大、成長してゆくでしょう。


なので「ファンタジーブームの頃に比べて売れてないから、今のTRPGはダメだ」と思うのでしたら、ちょっと待ってください。むしろ、マニア商売につきものの、上記の構造問題に関する解決法を見たければ、過去のブームの頃の、ではなく、今のTRPGを見てもらえればいいと思います。


面白いっすよ。最近のTRPG。

*1:T&Tはボックスではないです。向こうでペーパーバック、日本では文庫です

*2:あるいは80年代のTRPGが、それほど初心者向けに優れていたわけじゃありません

*3:「バスタード」の前半のほうの巻とか読むと判るかも

*4:それが全てというつもりは、もちろんないです

*5:TRPGブームが、もう絶対二度と来ない、というわけではないですが、もし来るとしたら、足下を固める地道な作業とは別の次元で起きることでしょうね