ラビットホール・ドロップス感想

伏見健二氏の、TRPG、ラビットホール・ドロップスの感想です。
http://www.facebook.com/RabbitHoleDrops
http://www.blueforest.jp/~fushimi/RHD/
以下の感想は、フリー版のみを参照にしています。

システム

ラビットホール・ドロップスのシステムは、おおざっぱに以下です。
・クラス
・能力値
・一般行為判定
・クラスごとの特殊技能
・ターン処理/戦闘ルール
・うさぴょん(お助けキャラ)
標準的なTRPGのルールという形ですね。
クラスは、騎士、旅芸人、王子/王女、商人、魔法使いの弟子、カエルの6種類。


特殊能力は、騎士なら倒した敵を味方にできる、商人は取引ができる、魔法使いの弟子は呪文が使え師匠と相談できる、等です。
ある程度、データ的な裏付けがあるのは、魔法使いの弟子の呪文くらいで、あとは判定等がなく、ロールプレイ的に処理してゆきます。


ルールとして割いている分量が一番多いのは、ターン性の処理、戦闘周りなので、私がこのルールで遊ぶとしたら、普通に戦闘ゲームかなと思います。
クラス紹介のところでも、
騎士:ほとんどの敵は、その剣の一閃で蹴散らされてしまうでしょう。
魔法使いの弟子:暗闇で光を灯し、敵を炎で焼く!
なんてありますしね。
ところが……。

ストーリー

冒険の物語にはアクションと戦いがつきものです。
(中略)
ただしあまり暴力的なものはのぞましくありません。
工夫をしないで、都合の悪いものを排除したり。
理解しあわないで、暴力で言うことをきかせたり。
そういうのはあまり好きじゃないです、と最初にお断りしてからゲームを始めると良いでしょう。
(中略)
このゲームでは、どんな危険なシーンの描写であっても、人が死ぬというのはナシです。
(戦いについての注意点)

さっきのシステムと合わせると、こうしたプレイ方針は、かなり難しいと言わざるえません。
戦いが二次的で、話し合いメインで解決する童話的なお話をプレイするTRPGは、それはそれで面白いわけですが、その場合、「騎士(ほとんどの敵は、その剣の一閃で蹴散らさる)」とか「魔法使いの弟子(ファイア:目標に30ダメージを与えます)」とかは、罠になります。


だって、騎士をやるなら剣で切り刻みたいですし、魔法使いの弟子なら、ファイアで大ダメージ与えたいですもの。


戦闘を楽しんでもらいつつ、それを都合の悪いものを排除するような暴力的なものでなくして、パーティ全員に楽しんでもらえるシナリオ、セッションというのは……時間をかければ考えつけないことはありませんが、かなり難しいとは思います。

シナリオ

(以下、シナリオ「裏山のリンゴ」の内容に踏み込んだネタバレになります)
実際のところ、どのようなプレイを想定しているのかで本体付属の基本シナリオとなる「裏山のリンゴ」を見てみます。


・老婆の依頼を受ける
・途中の雑魚敵を倒す
・りんごを守る大蛇をなんとかする


といった流れです。
この大蛇は、戦闘はできるものの強く、またダメージを与えてもすぐに復活します。
この大蛇をなんとかするには、途中で登場する、変装した魔女から魔女のペンダントをもらう必要があるのですが、具体的にどうしたらもらえるかは記述がありません。
また、夕暮れ、あるいは夜にゆくことで大蛇を回避できるのですが、これも、どうやったらそれがわかるのかは記述がありません。


正直な感想を述べると、このシナリオに書かれている情報だけでプレイするのは無理です。

プレイング

いや、そうは書きましたが、もちろんプレイングはできます。
自分がこれをマスタリングする場合を想定するなら、プレイヤーとNPCとの会話次第で色々な情報を出したり、プレイヤーが考えた作戦、アイディアを拾って誘導したり、お話を進めたりすることで、面白くプレイすることはできるでしょう。
「夜になると大蛇が消える」は、進行がとどこおった時に、「もう夜だ。なぜか大蛇はいない」という形でストーリーを進行させる意味があるというのもわかります。


ただ、当たり前の話ですが、こうした判断をするには、TRPGの経験あるいは能力が必要とされます。


このあたりは、各種キャラクターの能力にも関連します。
たとえば、騎士の「倒した相手を仲間にする能力」は悪く考えると「奴隷化」ですし、旅芸人は「相手に質問して必ず答えてもらえる能力」を持っています。これも質問次第ではヤバいことになります。これ、「質問内容によっては相手が敵になることもあります」と書いてるんですよね。
つまり「相手は嫌な質問には答えない」ではなくて、「相手はどんな質問でも答える。ただしそのあと敵になる場合がある」なわけです。


こうした能力を良識的なところに落ち着けて、うまく捌くには、GM、PLの双方に経験、能力が必要となります。

プレイ層

上記で書いた通り、ラビット・ホール・ドロップスを遊ぶには、TRPGのプレイングに関する経験、ノウハウが必要であり、システムが軽い分、そうしたノウハウに頼るタイプのゲームであると判断します。


一方、ラビット・ホール・ドロップスの著者紹介を見る限り、初心者向けTRPGを意図しており、また「学校教育・課外活動・障害者支援・病児支援など」への利用を想定においています。
TRPGを遊んだことがない人たちの間で、しかも、教育や障害者支援の目的で行うには、あまりにも無理があり、正直、危険ですらないかと思うのです*1


童話的な世界観で、無茶な戦闘よりも話し合い、工夫を大切にするTRPGを作りたいなら、別のやりようがあるのではないか、と、思います。

*1:フェイスブックにおいてデザイナーとの交流が計られており、そこで学べるという側面もありますが、通常の商業流通をしている時点で、交流がないユーザーも配慮すべきと考えます