模擬戦闘の視座よりの論戦の分析〜戦場の選択と兵站篇〜

要約

議論を戦闘として見た場合、勝利するためには、実際の戦争と同じ戦略が重要となります。
すなわち、戦場を支配し、自らのコストを減らし、相手のコストを大きくすることです。
これらを議論に当てはめることで、どのような論戦も有利に展開させることができます。

議論シミュレーション

xenothの日記では、ながらく良い議論のありかたと、TRPGやシミュレーションゲームの面白さについてを書いてきました。
今回は、この二つを合わせて、ウォーシミュレーションの見地から見た、良い論戦のあり方を考察します。

戦場の指定

およそ戦争において重要なのは、どこで戦うか、です。自分が攻めやすく、相手が攻めにくい地で戦闘を開始することが大切です。
ただし、相手も相手で有利な戦場を選びたいため、一方的に指定するのは難しいものがあります。


議論においては、相手が苦手なジャンルで、かつ、相手が論戦したがるポイントを突けば良いということになります。


そのためには、以下の方策が有効です。
1.メジャーで人気のあるジャンル、相手が好きなジャンルを選ぶ
2.自分しか知らない専門用語満載のマイナーなジャンルを選ぶ
3.1と2を混ぜて語る。
これによって、1で相手を誘導し、2で反撃するという技が使えます。


例えば、1に「まどか☆マギカ」を選び、2に「批評学」を選ぶわけです。
xenothの日記の読者層なら、1に有名国産TRPG、2に各種TRPG論壇や、海外TRPGなどを選ぶのも効果的です。
こうした挑発的言論による先制行動こそが、合理的な論戦の第一歩です。

兵站の効率化

戦場が決まれば、次には兵站を考慮する必要があります。兵站、補給の概念は戦争でもっとも重要といっても過言ではなく、論戦においてもそれは同じです。
議論における兵站とは、すなわち、議論の元になる事実、それらに関する基礎知識および調査といえるでしょう。
兵站を効率化するということは、つまり、最低限の知識で、論陣を張るということです。
そこで使えるのが換言法、つまり言い換えです。


1.批評対象を選ぶ(ある程度長いものが望ましい)
2.作品から要素を取り出す
3.要素を学術的な言葉に換言する。


3が少し難しいと思うので、以下に具体例を述べます。基本的には、カタカナや「〜学」「〜性」とつく単語です。


・痛いとか、お腹へったとかの描写がある→身体性
・えっちぃ描写がある→官能性
・登場人物がパロディやお約束を語っている→メタフィクション
・お約束を意識した上でネタにしたり、破ったりしている→ジャンルの脱構築
・民話や童話っぽいモチーフがある→物語論
・何かの元ネタを意識している→批評性
・幻覚や記憶喪失が登場する→認知科学
・人間並みのAIや仮想現実が登場する→認知科学
・現実ってなんだろう? と思うシーンがある→認識論
・萌え記号がある→記号論
・作中にゲームが出てくる→ルドロジー
・特定ゲームのノベライズやアニメ化である→ルドロジー
・直接の翻案じゃないけれど元ネタとして意識したりしている→ルドロジー
・複数の民族や文化が出てくる→カルチュラルスタディー
・内面描写がある→内宇宙(インナースペース)
・戦争がある→例外状態
・テロがある→9・11
・支配者や強国が存在する→パターナリズム
・突出して強い国がない→ポストモダン、冷戦構造の崩壊
・人種問題、民族問題、先進国と途上国の格差が登場→オリエンタリズム
・「正義なんて人それぞれなんだ」「生きる意味ってなんだろう」「自分が何になりたいかわからない」に類する発言、テーマがある→「大きな物語」の崩壊、ポストモダン
・うまく言えないけど、何か深いテーマがありそう→隠喩をはらんだ、寓意的な
・どこか浮いてる箇所がある→特異点
・いじめや善意の押し付けがある。群衆が扇動される。→同調圧力


要素は、ほんのわずかでもでていれば構いません。それぞれの要素が、その作品にとって重要かどうかは調べてはいけません。そうした点を調べて立証するには思考と作業が必要となり、それは兵站効率を下げることとなるからです。
習熟すれば、作品を鑑賞せずともパラパラとめくる程度で、さらには他人の評判を聞くだけで、こうした要素の抽出および換言が可能となります。


その他、万能で使える言葉としては「間テクスト性」などがあります。「間テクスト性」とは、同じもの(テクスト)でも、見る人や見る状況(文脈)によって意味は変わるね、という当たり前のことなので、どんな作品であっても「間テクスト性を含んでいる」といえるわけです。


例:「まどか☆マギカ」の場合
主人公は、将来に悩んでいますか? 悩んでますね。ポストモダンです。
えっちい描写がありますか? OPで裸が出ますね。官能性です。
痛そうな描写はありますか? マミさんがマミマミされますね。身体性です。
戦争はありますか? 魔法少女同士が戦いますね。例外状態です。
萌え記号がありますか? 魔女っ娘という記号がありますね。記号論です。


このほか、「ジャンルの脱構築」「ルドロジー」「パターナリズム」「カルチュラルスタディーズ」他などもこじつけ……抽出できるでしょう。

先制攻撃

こうして集めた単語を並べることで、まず先制攻撃を行います。

まどか☆マギカ」における官能性と身体性の描写は、ポストモダン的な現在における、例外状態に深く結びついており、間テキスト性のパースペクティブからも豊穣な解釈の文脈が存在する。

これが先制攻撃です。このような発言は、論旨に飛躍があるように見えるため、反撃を誘発します。しかし、反撃した時点で、既に相手は、こちらの戦場に足を踏み入れているわけで、有利な戦闘を展開できます。
以降の論戦について心がけるべきは、正面からの戦闘を避けるということです。正面からの戦闘には、大きな兵站を必要とするため愚策です。


重要なのは「それは読み方が浅い。作品を精読すれば理解できる」という態度を貫くことです。
これはつまり、論旨の問題を、そのまま相手に投げ返すことで、自身の兵站コストを減らしつつ、相手の兵站コストを増やすことにつながるからです。
最初に、ある程度、量がある作品を選べと言ったのは、これが理由です。長い作品であればあるほど、相手は精読に時間を取られます。


相手が対象を読み込んだ場合も慌てる必要はありません。「この専門書を読んでいないから、理解できないのだ」とすることで、相手のコストを一方的に増やすことができます。
またそもそも、ある程度の分量がある作品をきちんと読みこんだ場合、「身体性」などの一般的なテーマについて述べることは十分可能です。


応用編としては、作品を二つ以上使い、共通要素を取り出して、「系譜」や「文脈」「問題意識の共有」「同時代性」「照応」などで結びます。こうすると、相手は、両方の作品を読み込まなくてはならないので、さらに検証が面倒になります。


このような戦術を重ねることで、最低限の兵站によって、相手を沈黙=敗北に追いやることができます。

完全勝利

戦場を選択し、最適化された兵站で、論戦を続けることで、相手を沈黙させることができます。
これを繰り返す内に、どれほど発言しても、相手は何も言わなくなってゆくでしょう。
これこそが完全な勝利であり、護身完成とも呼ばれる境地です。
かの石原莞爾が思い描いた最終戦争を通じた世界平和、ディスコミュニケーションポストモダンを超越した民族と思想の融和の夜明けはついそこにまで迫っているのです。
「ゲーム」=「遊び」という固定観念に囚われる時代はもう終わりであり、果たしてこのような論議がどのような世界を導くか、この機会にお考えになってみるというのはいかがでしょうか?

おわかりと思いますが。

更新は2011年4月1日です。アイレムも円谷もお休みで寂しかったので……。