お返事お待ちしてます

一週間ほど前に、AGS様に感想とお願いのメールをお送りしました。
岡和田様、AGSの皆様がお忙しいのか、お返事がまだ届いていませんが、もしメールが不着あるいは見過ごされていると困るので、こちらでも記事として掲載させていただきます。
もし関係者やお知り合いの方が、こちらの記事を見られることがありましたら、お知らせいただけるとありがたいです。

ガイギャックス

メールとしてお返事をいただきたかったのは、前回、こちらの記事で書いた、ゲイリー・ガイギャックスの記述に関する疑問です。
ローマとペルシャと『秘身譚』 - xenothの日記

なお批評の現場にいると、(相互干渉性を前提とした)背景世界の充実に代表されるRPGの構築性については、まだまだ批評の言語が追いついていないという思いを日々強くします。ゲイリー・ガイギャックスは(背景世界を的確に踏まえた)RPGのシナリオが文学として評価される日の到来を夢想しました(『実践ゲームマスターの達人』)が、物語表現の未来を考えるためには、ガイギャックスの憧憬についてきちんと向き合う必要があると私は確信しております。そのための第一歩として、『秘身譚』は優れた思考の種を与えてくれるでしょう。

上記の岡和田氏による解説の記述ですが、一点、誤解を招くかもしれない点があるので補足させていただきます。

『実践ゲームマスターの達人』におけるゲイリー・ガイギャックスの言葉ですが、正確な引用は以下のとおりです。

「いつの日にか、ロールプレイング・ゲームのシナリオも文学として認められ、小説、戯曲などと同じような地位を得るようになるかもしれない。しかしそれまでは、マスター・オブ・ゲームは、これがみずからの願望を充足させ、自分を楽しませ、グループから賞賛されるということで満足しなければならない。もっとも、それ以上の報酬など、いったいなにがあるというのだろう!

岡和田氏の抜粋も無論、間違いではないのですが、ニュアンス的には、ゲイリー・ガイギャックスが、TRPGのシナリオが文学として評価される日の到来を夢想しているというよりも、「文学として認められているわけじゃないけど、別にいいよね! だって作ってる自分も楽しいしTRPGの仲間にも喜んでもらえるから、それが一番の報酬じゃないか!」と取るのが自然かと思われます。

メールで送った文章は以下です。

TRPGの発展を誰よりも願っていたゲイリー・ガイギャックスは、TRPGのシナリオのステータスの上昇も願っていたでしょうし、岡和田様のおっしゃることも必ずしも間違いではないとは思いますが、「実践ゲームマスターの達人」の引用としては、誤解を招く部分もあるのではないかと思います。


様々な考えがあり、xenothの指摘が完全に正しいとも思いませんが、ここに関して原文を併記し、読者の方に判断を委ねるくらいの正当性はあるのではないかと思っております。
併せてxenothの記事をAGSの読者にご紹介いただければ、大変にありがたいです。

引用と信用

産学連携を目指すAGSの方々に、今更言うこともないとは思いますが、学問を行う上で、文献の引用の正確さは大変に重要な問題です。


今回、私は、岡和田様の引用に関して上記のような異議を述べました。
文章の解釈において、私と岡和田氏のどちらが明白に正しいかは、単純に決める事はできないでしょう。
xenothが正しいから訂正しろ、と言い張るつもりはありません。


学問においては、意見が対立した場合に行うのは、それぞれの論を比較できる形で併記し、また論の基盤となる事実を明らかにすることです。
それによって見る人間が客観的に判断できる基盤を作るわけです。


この件で言えば、岡和田様の引用元を提示し*1xenothによる反対意見にもアクセス可能とすることです。


何でもそうですが行き過ぎた両論併記の強要は、もちろん問題があります。たとえば、進化論とインテリジェントデザイン論を同時に教えるべきだといった主張は、xenothは明白に間違いだと思いますし反対します。


さて、では今回の件について、xenothの意見は、両論併記することで学問としての信頼に貢献するものでしょうか?
あるいは、インテリジェントデザイン論のように、明らかに検討に値しない意見なのでしょうか?
これについては第三者の方々のご意見を賜りたいところです。


今回の議論の元となった「実践ゲームマスターの達人」は、特に絶版本であるので、アクセスしにくい対象であるというのもあります。
そうした文献を扱う場合、できる限り、情報公開の立場に立ち、引用元を正確に記述するべきだと思います。
なぜなら、論者のみがアクセスできる記述に基づいた意見は、容易に偏向するからです。


これはなにも岡和田氏が偏向しやすいという話ではありません。
学問というのは、一つには意見の正当性を確かめる方法論です。
そこでは、それぞれの学者が間違っている可能性、勘違いしている可能性があることを明白に意識し、それ故に、批判や検証に重きを置きます。
日常会話の感覚からすると意地悪い程に、間違いや勘違い、捏造の可能性を追求します。
それを積み重ねることによって、学問は信用を得てゆくわけです。
文献の公開とアクセスしやすさを重んじるのも、そこから生まれた重要な習慣の一つであり、広く守られているものです。

ゲイリー・ガイギャックスと文学性

ガイギャックス『ロールプレイング・ゲームの達人』、『実践ゲームマスターの達人』は、ダニガン『ウォーゲーム・ハンドブック』のように、シリアスゲームの指南書として読まれるべきではないかと思う。いまだと4版の『ダンジョン・マスターズ・ガイド2』も充分組み入れて創造的な読みを引き出せる。 2011年1月14日 23:52:42 webから
http://twitter.com/orionaveugle/status/25928296499781635

すなわち文学論(物語論)とシリアスゲームの融合と言うべきか。ガイギャックスの目指していたところもそこにあるのかもしれない。『サブカルチャー戦争』のゲームリストで、認知−学習の過程に着目した原稿を書いたが、この認知−学習を楽しさに変えたうえで、学習を重視したのがガイギャックス本。 2011年1月15日 0:11:54 webから
http://twitter.com/orionaveugle/status/25933127536869376

元々のAGSの記事に加え、岡和田氏は上記のようなツイートをされています。
さて、これは私見になりますが、ゲイリー・ガイギャックスが、実際に文学的な評価を求めていたかどうか、という点ですが、個人的にはあまりピンと来ません。


ゲイリ・ガイギャックスが作ったD&D以外のTRPGには『デンジャラス・ジャーニーズ』や『Lejendary Adventure』があります。
D&D自体はTRPG文法を作り出した作品なので、この時点では、「TRPGに足りない文学性(?)」を求めることは無意味ですが、それから日本でもアメリカでも様々な表現力を追求したTRPGが生まれてゆきます。


その中で作られた『デンジャラス・ジャーニーズ』(1992年)は、エジプト/ローマ系のファンタジー世界でプレイするTRPG。マルチジャンル展開の汎用TRPGシステムで、発表されたワールドはエジプト/ローマ系のファンタジー世界*2
『Lejendary Adventure』(1999年)*3は、D&D的なファンタジー世界を、より軽く気軽に遊ぶ系統のゲームです。タイトルは「伝説の冒険」のスペルを子供っぽく間違えたもの。パロディ色もありつつ、正統派の冒険TRPGになっています。


これらのゲームを、きちんとプレイしたわけではないのですが、見るかぎりにおいて「シリアスゲーム」的な観点や、「シナリオの文学性」を追求しているようには見えない、というのが正直なところです。
個人的に思うのは、ガイギャックスという人は、モンスターと戦ったり罠に潰されたりするような、D&D的な王道の冒険が本当に好きなんだなぁというものです。


これらの作品およびガイギャックスの他の作品で、ガイギャックスが文学論(物語論)とシリアスゲームの融合を目指していたと取れるようなところがありましたら、ご教授いただけるとありがたいです。

追記(01/23)

gensouyugi TRPG #trpg どうなんだろう。xenothさんの意見ももっともだけど。全ての意見にいちいち応対する必要があるかどうかと考えるともにょる。でも、意見交換を無視しているAGSの方針もサイト方針と著しくずれている気はする。

gensouyugiさんにはてブコメントをいただきました。


AGS様に、全ての意見に応対する義務はもちろんありません。xenothは応対してほしいなぁと思い、その理由を述べましたが、AGS様がどう思うかはAGS様の自由です。


一つあるとすると、今回xenothが書いたことは、xenothの利益ではなくて、読者に対する利益およびそれに関する信用と結びついている点です。
間違った情報あるいは不十分な情報を書いた時に指摘を無視するのは、それを読む読者のためになりません(もちろんガイギャックスに関する記述が間違っても不十分でもないと判断されるのはAGS様の自由です)。


そしてxenothの求めているのは両論併記なので、別に細かく応対しなくても、トラックバックかコメントなどの機能がもしあったら、それで済んでいたことでもありました。

*1:岡和田氏は、引用元を明確にしていないので、あるいはxenothが引用したのと違う箇所を意識されていたのかもしれません。それでしたら本来の引用箇所を示していただければと思います。

*2:01/22 修正。

*3:http://lejendarylands.org/