鏡さんへ

よりわかりやすい用語名を求めて

第一、誰がわざわざ「わかりにくくて判別しにくい」用語を使うものですか。著者は、これなら分かってもらえるだろう、と著者なりの「主観」で判断して、定義するのです。それが読者の「主観」とは異なっていたとしても、著者を責めるべきではありません。そもそもの高橋志臣さんだって、読者に「わかりにくくて判別しにくい」ことを期待してなどいなかった、と推察します。


ついでにいうと、より相応しい用語が後で見つかったなら、そうと断った上で、定義は幾度でもやり直すことができます。というか、定義にせよ論考にせよ、気軽なものであった方がよろしい。考えること、そしてそれを述べることに、臆病にならないように。

http://www.rpgjapan.com/kagami/2010/08/post-223.html
同じ概念を指し示す用語であっても、「よりふさわしい」ネーミングがありうる、ということはご理解いただけるわけですね。
であるなら、「こちらのほうがふさわしいのではないか」という提案をする意味があることも、ご理解いただけると思います。

不要な言い換えを排除するということ

そのような「定義」と、既に適切な名称のある概念を、別の言葉で言い換えることとは、まったく異なる行為です。

おっしゃる通りと思います。
システムデータと設定は、システムデータと設定と呼べばいいのであって、わざわざ「量的情報」「質的情報」などと呼ぶ必要はないわけです。


もちろん、「結果的に指し示す事柄」が同じであっても、「背景となる定義、概念」が別物であれば、別の概念として名付ける意味がある。


では、その「背景となる概念」とはどういうものでしょうか?


高橋氏は、量的情報、質的情報は、indexical dataとsymbolical dataから持ってきたと言っています。つまり、「量的/質的情報」といった「概念」は、別に高橋氏が新たに作ったものではない。
「既に適切な名称のある概念を、別の言葉で言い替え」ているわけです。


indexical/symbolicalというのは、どういうものでしょうか?
symbolicalというのは複数の解釈がありえるということです。
indexicalというのは、特定の尺度の中で、一個の意味を持つというものです。
たとえば「おまんじゅう」は、人によって、思い浮かべる、おまんじゅうが違うので、これはsymbolicalなdataです。
「2001年1月1日」というのは、「カレンダー」という尺度の中では、特定の日付を表す一個のindexicalなdataです。
それと同時に、「2001年1月1日」と言われて思い浮かぶことは、人それぞれでしょう。多くの人にとっては、21世紀の最初の一日で、お祭りの印象があるでしょう。別の人にとっては恋人に振られた一生忘れられない記念日かもしれない。
そういう自然言語的な文脈においては、「2001年1月1日」はsymbolicalなdataです。


長々と書きましたがsymbolicalというのは「普通の言葉」程度の意味です*1
indexicalというのは「あるシステムにおいて意味を持つデータ」程度の意味です*2


え、そのくらいなら、「普通の言葉」でいいじゃん、「データ」でいいじゃん、と思うでしょう。
実際、その通りです。
indexical,symbolicalという用語は、記号論という学問における専門用語なのです。
学問においては、当たり前の日常のことを、より細かく精緻に定義し、ある側面に絞って語るために、そうした基本に立ち戻った用語を定義するわけです。
学問においては、よくある話です。


ではTRPG論で、記号論の専門用語を持ち出してまで、精緻に定義する必要があるようなことがあるのか?
……別にありません。
百歩譲って、「TRPGのシステムデータはindexicalな性質があり、設定文章には、symbolicalな性質がある」で済む話でしょう。
いちいちそこで新しい用語を定義して、システムデータを「量的情報」とか言ってわかりにくくする意味が全くないのです。


高橋氏のオリジナルな主張は、それらのTRPG文脈への位置づけにあります。
TRPGは、「設定情報」を取り入れて、「システムデータ」を作り出してゆき、また、その逆もある、という点です。
システムデータと設定情報が、相互にやりとりをするところに、TRPGの独自性があるのではないか。この指摘自体は、大変に意味があるものだと思います。
逆に、その指摘をするに当たって、indexical/symbolicalという無駄に専門的で、無駄に広すぎる概念を持ってきるのは、論理的に不適当であるということです。

*1:より細かい話をすると、言葉が実体を指す指し方がsymbol、つまり象徴的であるという話です。日の丸は日本じゃないけど、日の丸を見て、人は日本を思う。そして、その思う「日本」は人によって違う。それがsymbolicalであるということです

*2:indexは目盛りくらいの意味です。あるシステムという定規の中で、その目盛りの一個をきっちり示している、という感じです