秘密結社ファイアーウォール〜エクリプスフェイズの向う道〜

秘密結社と陰謀団

AGS様で更新がありました。待望のPC組織ファイアーウォールの解説です。
陰謀団ファイアーウォール(FIREWALL)とは何ぞや?: Analog Game Studies
Conspiracyを蔵原様は「陰謀団」と訳しておりますが、xenothは秘密結社と訳しておきます。

追加翻訳

今回、蔵原様がEPよりFirewallに関連する部分を訳出されておりました。
xenothも、ファイアーウォールについて、気づいた部分を翻訳・紹介してゆこうと思います*1
なお、ファイアーウォールとは何か、エクリプス・フェイズとは何かについては、これまでの記事をご覧ください。
エクリプス・フェイズ〜人類を災厄から救うのは君だ!〜 - xenothの日記
エクリプス・フェイズあれこれ〜Eclipse Phase as Science Fiction〜 - xenothの日記
エクリプス・フェイズとハイパーコーポ - xenothの日記
エクリプス・フェイズあれこれ〜恐怖とパラノイアと陰謀について〜 - xenothの日記
エクリプス・フェイズとダブルクロス - xenothの日記

Firewallとは?

Firewallとは、エクリプスフェイズTRPGにおいて、基本的にプレイヤーが所属する組織で、その任務は、世界・人類の危機と闘うことです。
無数の新技術があふれるエクリプスフェイズの未来世界は、同時に、技術の暴走をはじめとするさまざまな危機に脅かされている世界でもあります。
Firewallと、そして所属するキャラクターの任務は、それに立ち向かうことです。


ゲーム的には、プレイヤーのやるべきことをしっかり作るギミックでもあります。
「すごい未来。超科学。進化した人類。さぁロールプレイしよう!」と言われても難しい。
そもそも現代物の難しさですが、さまざまに異なる社会、信条、肉体のキャラクターを作れるようにした場合、そうしたキャラ同士がつるむ理由がなかなかない。
スタートレックギャラクティカなどは、「同じ船での運命共同体」という形で、そうした場を作っていますが、エクリプス・フェイズの場合は、秘密結社ファイアーウォールというわけです。


ファイアーウォールは世界の危機を監視し、任務ごとに、任務に応じた適正のあるエージェントを割り振り、あるいは緊急任務なら、とにかく事件のそばにいるエージェントを集め、そうしてできあがったグループ(セル)が、独立で問題に取り組みます。
GM側からすると、さまざまなPLの適正に合わせてシナリオを組み立てられる、というわけで、これも便利な点です。

プレイヤーは何をするの?

まずは、基本ルールブックの最初の章からの紹介です。p84-85
最初だけあって、大変わかりやすい形で書かれています。

プレイヤーは何をするの?


エクリプス・フェイズにおいて、プレイヤーは様々な役をプレイします。精神のデジタル化技術が発達して、精神を新しいモーフ(物理的な体。生体ボディも合成ボディも含む)にアップロード、ダウンロードできるようになったため、セッションごとに、まったく新しい人間としてプレイすることができるようになったのです。体が装備と同じ意味をもつ世界で、プレイヤーは、任務に合わせて身体をカスタマイズします。


基本的なキャンペーン設定(デフォルトキャンペーン)


基本的なストーリー(キャンペーン・セッティングともいいます)では、プレイヤーは、ファイアーウォールと呼ばれる正体不明のネットワーク組織の、センチネルといわれる呼び出しエージェント(あるいはこれから入る新人)となります。ファイアーウォールは人類の存続危機(トランスヒューマニティの存続それ自体を脅かす危機)に立ち向かう組織です。そうした危機の中には、生物兵器による疫病や、ナノマシンの暴走、核の汚染や、大量殺戮兵器をもったテロリスト、ネットワークを破壊するコンピュータ攻撃、自律AI、エイリアンとの接触などがあります。ファイアーウォールも、単にそうした危機が出てきてから叩くばかりではありません。ですから、キャラクターは情報収集任務や、先手を打つために派遣されることもあるでしょう。一見無害な人や場所に派遣され(実際は違うわけです)、怪しげな犯罪組織と取引し(そして裏切られ)、パンドラゲートのワームホールをくぐりぬけて、古代の異星人の遺跡を探検します(そして異星人を滅ぼした危機が実はまだ生きていることに気づくというわけです)。センチネルは、トランスヒューマンのあらゆる社会から抜擢されます。世界の危機を救うという理念に忠実でないものも、傭兵として雇われることがあります。こうした基本キャンペーンは、ちょっとばかりの謎と調査に、さらに苛烈な戦闘やアクション、最後に、驚異とホラーの要素を一つまみ、といった塩梅になるでしょう。

なお、このあと、ファイアーウォールの任務以外の形のシナリオについての解説があります。


世界観的な部分ではファイアーウォール入会者への2通のメールがあります。
明るく希望に満ちたメッセージと、ちとやさぐれたメールで、二つの方向からファイアーウォールを描いています。

ウェルカム・トゥ・ファイアーウォール
[メッセージ受信:送信元不明]
[量子解析:通信傍受無し]
[複号化完了]
やぁ。
君の身元と背景は三重チェックの上通過した。君は今から、センチネルだ。ファイアーウォールへようこそ、友よ。
まだ知らない新人のために言っておくが、ファイアーウォールは、トランスヒューマニティを、内外の危機から守り、種として存続させることを目的とする組織だ。「The Fall」で、人類が生き残って繁栄する能力には大きな疑問符が付くと思い知ったはずだが、まぁ人間というのは忘れっぽいものだね。確かに、不老不死という目標をほぼ達成したものの、一方では絶滅しそうな危機がごろごろしている。
まず人類自身の分裂と派閥争いに加え、巨大な破壊と死を招く兵器が簡単に手に入る技術が一般化したことだ。さらにわれわれ自身の近視眼によるものもある。間近の危険が目にはいらず自分自身と環境を危険にさらしてしまう。また人類が創造したものの離反がある。TITANがいい例だ。そのほかの危機は、いまだに意図のわからない、あるいは存在していることさえ気づかれていないエイリアンの接触だ。
さらにあげるなら、宇宙にとっては我々は小さな石ころだ。どうでもいい偶然の変化でも十分致命的になる。ファイアーウォールが存在するのは、こうした危機を発見し、分析し、対抗するためだ。我々は皆、ボランティアであり、トランスヒューマニティの存続のために自分自身の命を危険にさらしている。The Fallより前から、ファイアーウォールは、さまざまな名前や隠れ蓑で存在していた。そして、あの巨大な大破壊以後は、同じような目的をもつ数多くの組織が団結し、われわれの状況を観察して最悪に備えることになった。そういうわけで我々は今は同じ寄り合いのもとで動いてるというわけさ。
ファイアーウォールが、公的機関じゃないことには二つ理由がある。まずわれわれの存続と能力は秘密性によって守られている。敵に知られていることが少なければ少ないほど、我々もうまく対抗できる。それに一部の公的機関は、彼らの庭で我々のようなものが動くのを好まないからね。たとえ一部に気付かれているにしても、秘密組織であることによって、無数の法的なしがらみから逃れて目的を追求できるというわけさ。二つ目に、我々の任務においては、悪人の手に渡ると危険というだけでなく存在自体が知れるだけで大規模なパニックを引き起こすような情報を見つけてしまうことがある。さらには、存在自体が問題な知識さえある。秘密を守り、必要十分な情報だけ伝えることで、そうした危険と闘っているというわけさ。
ファイアーウォールは、分散化した、ピア・ツー・ピア型のネットワークだ。必要最低限の上下関係しかないし、誰からの命令を受けることもない。ノード構造によって、プライバシーと任務の秘密を守りながら、情報やリソースを分け合うことができる。君が抜擢されたのは、君の知識や資産、技能が必要とされたか、あるいは特定の制限された情報に出会ってしまったかだ。とにかく君は、我々の目標を守ることに同意した。人類の命と存続、トランスヒューマニティの未来は君の手にかかっている。未来に向けて乾杯。それが確かにくることを祈って。
[メッセージ終了]
[メッセージは自動消去されました]

新入りが本当に知っとくべきこと
[メッセージ受信:送信元不明]
[量子解析:通信傍受無し]
[複号化完了]
座れ。まぁ一杯やれ。今読んだばかりのAI生成のたわごとは忘れちまえ。これからがマジな話だ。どうせ、いったい何に巻き込まれたか気になるんだろう? あぁ、もう、例のお題目は聞いたか?
俺達は、トランスヒューマンを絶滅から守る最後の防衛線だとかなんとか。あるいは、許可もなくクソのどまんなかに突っ込んで勝手にやる秘密組織で、殺したり殺されたりするとかなんとか。気になってるはずだ。あんたはヒーロータイプかい? 正義のために血を流したいってやつ。その正義が腐ってたらどうするよ? でなきゃ陰謀論者か。ファイアーウォールが持ってる秘密が知りたくて知りたくてたまらないってやつ。その秘密が、人間が正気を保って生きるために綿密に作られた嘘を壊しちまうとしたら? ファイアーウォールについてあんたが聞いたことは、良いのも悪いのもだいたい当たってる。俺達は天使じゃない。TITANが最初の犠牲者の精神を強制吸収した時に、頭のわっかはなくしちまった。今頃あんたは、いったいどんなクソッタレなことに応募しちまったか頭抱えてるだろう。俺もそうだった。
実際のところ、ファイアーウォールってのはいろいろなもんだ。おおむね善いものだが、それでもおぞましいこともたくさんある。忘れるために、脳みそに銃弾つっこんで、前のバックアップに戻りたくなるようなやつだ。だがヒーローへのロマンティックな思い入れがあるなら、ここで捨ててゆけ。
伝染性のナノビールスにかかった、どっかのガキをエアロックから放り出すとき、ヒーロー気分になれるかい? エイリアンのヤバい代物にぶちあたって、糞もらしても勇者だと言えるか? おまえのメール一本で、数十、数百、数千の人間が死ぬことになる。それが数百万を救うためだとしてもな。そんなときは、自分が人間だって気すらしない。
ならなぜ、こんな馬鹿げたことに首をつっこむのか? それはな、やらなきゃならんことだからだ。俺たちの生存がかかっている。なるほど、人様のためにやってるつもりのやつもいるだろうよ。トランスヒューマニティを守るってな。だが実際のところ、おまえの首だってかかってるんだ。
あぁそりゃ自分の手でやらずに、公的機関様に任せてもいいさ。だけど無政府主義者もたまにいいこというが、権力者は信用できないもんだ。問題解決するどころか、あいつら自身が問題の根源だったりする。
だからファイアーウォールは、集団的に動く。俺達はアンダーグラウンドだ。オープンソース・オペレーションだ。情報とリソースを分配して共通の目標に動く。ネットワークで、アドホックなセルを作って、スマートモブ方式でやっつける。誰かに権力や権限が集中しないようにする。オペレーションの参加者全員が同じ発言権を持つ。俺達は俺達自身を裁く。あらゆる背景と社会に分かれてるが、敵は同じだ。そして戦うからには勝つ。ほかに方法はない。
あんた、フェルミパラドックスって聞いたことあるか? そいつはな、なんで銀河系はこんなでかいのに、ほかの知的生命体は見当たらないのかってやつだ。確かにFactorsとはコンタクトしたし、ほかにもいくつかのエイリアンの痕跡はあるが、それにしたって銀河全体にもっと知的生命体がいっぱいいてもいいはずだ。だけどいない。理由を教えてやるよ。宇宙ってのはクソッタレに残酷な場所なのよ。トランスヒューマニティが消えたところで銀河は気づきもしねぇ。地球を見ろ。まだ惑星としてはあるし、生命もあるが、あらかたなくなっちまった。現実ってのは冷酷なクソッタレだ。ユートピアがどうとか永遠に生きるとかのたわごとは忘れやがれ。俺たちゃ来年生きのびれたらラッキーだっつの。どこの馬の骨でも簡単に大量殺戮兵器が手に入る時代だってのに、種としての人類は、いまだに部族同士の小競り合いで止まってるガキんちょだ。不老不死の存在となって世界を見届けるつもりなら、まだまだやることはいっぱいある。生存は権利じゃない。特権だ。
ファイアーウォールと契約したなら、いつでもどこでも呼び出される。てめぇのシマでクソがわくか、クソに効くやつと思われたら、呼び出される。その時は何してても全部放り出して、来なけりゃ死ぬ勢いで任務に当たれ。実際、死ぬだろう。
任務に出てる時は―俺たちゃ「ちょっと医者いってくる」と言ってるが―おまえのセルは自分の判断で動くことになる。だが後で報告はしてもらうからな。それに、ファイアーウォールのネットワークがバックアップに回る。まぁ援助の範囲は限られてるから、俺たちにケツもってもらおうなんておもうなよ。ほかのセンチネルも手伝いに呼べないこともないが、そすうるたびに、エージェントの秘密が危なくなり、足跡を消す手間がかかったり、いろいろ面倒になる。自給自足が基本だ。
最後にひとつ。俺達には敵がいる。そいつを絶対に忘れるな。ハビタットを核爆破して政治声明だとかいうグズとか、生物兵器で文明に鉄槌をとか思ってるネオラッダイトの連中のことじゃねぇぞ。俺が言ってるのはファイアーウォールの存在を知り、敵とみなしているエージェントだ。そいつらにおまえがセンチネルってばれたら、おまえの命は秒読みだ。バックアップも消されるかもな。だから背中に気をつけろ。
さ、こいつがほんとの話だ。できる限り正直に書いたつもりだ。俺達の秘密のクラブハウスへようこそ。
忘れるな。この仕事に死はつきもんだってな。
[メッセージ終了]
[メッセージは自動消去されました]

フラッシュモブとはなんぞや

先ほどのメールで、「フラッシュモブ方式」という耳慣れない単語がありましたので調べました。
フラッシュモブというのは、不特定多数がネットで集まって、何かするというもので、「突発オフ」みたいな感じですね。
特定の人間を指定せず、ネットで「○○の日に、××で集まって、△△やって盛り上がろうぜ!」といった形で行うわけです。


ファイアーウォールのセンチネルも、「君んとこのそばで事件が起きたから、すぐ行ってくれ」「あ、君、ナノマシンくわしかったよね。ネットでアドバイス頼む」みたいな感じで、集められるのでしょう。

翻訳について

今回、蔵原様が訳出されておりました部分に関して、数点、気づくことがありましたので、こちらに書かせていただきます。

Though many sentinels pursue their own agendas
after completing a mission for Firewall, it is not uncommon
for sentinel teams to remain in contact, share
information or continue to work together on Firewallrelated
assignments over a longer period of time.
p84-85
多くの監視員はファイアーウォールの任務を完遂するよりも自分一個の思惑に従って行動しますが、ファイアーウォール関係の長期に渡る様々な任務に関して、監視員の複数チームが連絡を取り合ったり、情報の共有、共同で作業を続けることも珍しくありません。

この文章だと、ファイアーウォールの監視員は、おおむね任務を無視して好き勝手やってるように読めますが、より正確には、こうなるかと思います。

監視員はファイアーウォールの任務完遂後は、通常、自分自身の目的を追求しますが、監視員のチームがファイアーウォール関係の仕事について、引き続き、長期に渡って連絡を取り合ったり、協力し続けることも珍しくありません。

ファイアーウォールの監視員は、あらゆる社会、職業から抜擢されますので、中には仲の悪い監視員もいるわけです。たとえば、警察と犯罪者、とかですね。
その彼らも、任務中は任務のために協力するが、任務が終わると、また対立関係に戻るわけです。
一方で、対立関係にあるといっても、長期にわたる任務などでは、やっぱり利害を超えて協力することもあるというわけです。

パラノイア

〔訳者注意:ファイアーウォールの真の歴史、暴力性、長期戦略に関しては英文基本ルールブック(2009)の355〜361頁で説明されています。ですが、そうした極秘情報は普通の市民や下級の監視員には知るすべがありませんから、知っている等と公言する連中は嘘つきでなければ組織の機密を漏洩する反逆者に違いありません。同士諸君、逆賊に死を!!〕

蔵原様の記事の結びにある文章です。
PCとPLを意図的に混同した話ですが、これはWEG社の「パラノイア」という海外TRPGネタですね。
同ゲームは、「発狂したコンピュータがすべてを支配する閉鎖都市で、コンピュータの命ずる(狂った)任務を遂行するふりをしつつ、互いに矛盾する勝利条件を満たすために、裏切りあい殺しあい、なんとかして生きのびる」という文字にすると重いですが、ライト感覚で死んだり殺されたりするブラックユーモアたっぷりのゲームです。


このパラノイアというゲームでは「GM情報なので見ないでね」というのの、気の利いた言い方として、「そうした極秘情報は普通の市民や下級の監視員には知るすべがありませんから、知っている等と公言する連中は嘘つきでなければ組織の機密を漏洩する反逆者に違いありません。同士諸君、逆賊に死を!!」といった言い方がよくされていました。


上下構造を意識しない分散構造のファイアーウォールに「下級監視員」があったり、さまざまな社会・思想を代表するセンチネルに「同士諸君」といった呼びかけがあるのは、そうしたネタであって実際のエクリプス・フェイズとは関係ありませんからご注意を。


なぜ、全く関係ないTRPGのネタ*2が、いきなりエクリプスフェイズの記事に含まれているかですが、正直、さっぱりわかりません。普通に考えて、混乱を招くし、また失礼でもあるとは思いますが、何か深い意図があるのでしょうか。
一つだけあるとすると、岡和田氏によると蔵原氏の最初のEP記事は、「疑心暗鬼とパラノイア」について焦点を当てた記事であるということでした。
もしかして今回のも、そうなのかと気になるところです。

*1:なお以下の翻訳を含み、この記事を、『Eclipse Phase』のCreative Commons Licenseに従い、Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike(http://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/3.0/)の条件で、配布するものです。(C)Posthuman Studios, LLC. http://eclipsephase.com

*2:細かいことを言うと、EPの参考作品の中に、パラノイアは含まれてはいます。もちろん他の多くのTRPGも載っています