ゲームブックの過去と未来

過去

AGS様が更新されました。*1
今回は、小珠泰之介様によるゲームブックの記事です。
ゲームブックとの邂逅: Analog Game Studies


一読して大きくうなずくことばかり。
なんのことはなくxenothもゲームブック世代で、ウォーロックの藤浪智之(わきあかつぐみ)の記事で育ったもので、もうひたすらに懐かしく。
小珠様のゲームブックとお子さんへの大切な想いが伝わってくるようで、すがすがしい記事でした。


全ての始まりとなった社会思想社の『火吹山の魔法使い』は今でも忘れられず、「自作のゲームブックを作って途中挫折したり(なぜか400項目にこだわるせい)」←あるある! 挫折した挫折した! とか、『モンスター誕生』もいいけど『モンスター逆襲』もいいよね、とか思い出話は長くなりますが、それは置くとしまして。


小珠さんが書かれているとおり、ゲームブックというのは本という媒体も含めて、ページを指でめくってゆくことを含めてゲームブックであり、大切な体験なのだと思います。
それはTRPGのソロプレイを行うためのものではなく、また、ノベルゲームに代替されるものではない。

ちなみに私はゲームブックを遊ぶことは、直感的にはむしろアクションゲームを遊ぶ感じに近いのではないかと感じています。

というのは、膝を打つ思いでした。

現在

さて、藤浪智之の新作『バニラのお菓子配達便!〜スイーツデリバリー〜』が発売された時、私は上記のようなことを思っていながら、それでも心配が拭えませんでした。


ゲームブックにはゲームブックの独自の価値がある。それはコンピュータで代替されるものではない。
でも……ケータイ世代でPSPだったりDSだったりする今の子供達は、どうなんだろう? ゲームブックを読んでくれるんだろうか? 
「俺は」面白いと思うけど、今の子達は面白いと思ってくれるんだろうか?
何のことはない。自分でその価値を信じきれてなかったわけです。


その答えは、小珠様の記事の中に、そしてつばさ文庫様の『バニラのお菓子配達便!〜スイーツデリバリー〜』ページの中にありました。
バニラのお菓子配達便! ~スイーツデリバリー~ | 本 | 角川つばさ文庫


いや不明を恥じるばかりです。


ゲームブックを遊ぶこと、ページをめくること、本を読むことには、かけがえのない価値があるし、それは(ちゃんと相手のほうを向いて作るのであれば)いつの時代でも通じるのだ、ということを胸に刻みつけようと思います。

身近な未来テクノロジー

話は飛びますが「現代人がファンタジー世界や中世世界に移動して、現代知識で大逆転」系のお話ってありますよね。


一番わかりやすくて派手なのは、現代テクノロジーを一緒に持って行くことだったりしますが(『戦国自衛隊』とか)、純粋な知識だけから逆転するのも熱いものです。
タイムスリップものだと、ベタに役立つのが未来を知れる「歴史知識」ですね。
他には『A君(17)の戦争』では軍事戦闘知識であり、『まおゆう魔王勇者*2では(主に)経済や農業知識だったりしました。『JIN―仁―』は医学知識です。変わったところで『テルマエ・ロマエ*3の「お風呂知識」というのもあります。


でまぁ、俺なんかがタイムスリップしても、歴史はうろ覚えだし、一人でできるような専門技能もないし、変な人として野垂れ死ぬのではないかといつも心配になるのですが──ただアナログゲーム知識なら多少の覚えはあります。


くだらない妄想ですが、たとえば元禄時代に『カタンの開拓者』を持ってったら天下を取れるのではないか、と(笑)。
花札で「大富豪」やってもいいですね。千社札にデータ付けて、トレーディングカードゲームを企画するとか。
あるいはローマ時代にゲームブックを書いてたら、一代ブームを起こして歴史に名を残せたのではないか、と。
もちろんTRPGもやりたいです。


ま、もちろん、そんな簡単なものではないでしょうが、それができるかもしれない、と思わせるのは、ボードゲームゲームブックもTRPGも、れっきとした技術の積み重ねであり、積み重ねた分の優位性があるということです。


技術の進歩や未来の過去に対する優位というと、つい派手な科学技術関連を思い出しがちですが、アナログゲームの分野でも、それらは常に変化し、一方で進歩し続け、あるいは技術が失われてロストテクノロジー化しているわけです。


例えばこの十数年で、TCGやTRPG、ボードゲームがどれだけ変化し、進歩したかは、やってる人間には言うまでもないでしょう。やってないと信じられないくらいの技術的な進歩があったわけです*4


ゲームブックも、パラグラフ分岐という概念自体は、遠い昔からあったわけです。O・ヘンリーの『運命の道』なんかはパラグラフ数3のゲームブックですし、他にももっとずっと遡れるでしょう。
ただその概念を追求し、規模を大きくし、様々なルールをつけることで、全く違う次元の面白さが発見されていったわけです。


そんな風に未来を見つめたゲームブックが、これからも遊べたらいいなぁと思います。
技術を継承し、洗練し、未来を担う子供たちに楽しんでもらうようなゲームブックが、もっともっとたくさん出るといいなぁと思います。

補足

藤浪智之のゲームブックは、他に著書のコミック『マンションズ&ドラゴンズ』『ダークローダーズ』のノベライズである『コトノハ通信』*5や、『だんじょん商店会〜魔女のお店はじめました〜』(同名PSゲームのゲームブック化)もありまして、是非。

マンションズ&ドラゴンズ (1) (Gum comics)

マンションズ&ドラゴンズ (1) (Gum comics)

コトノハ通信 マンションズ&ドラゴンズ&ダークローダーズノベル

コトノハ通信 マンションズ&ドラゴンズ&ダークローダーズノベル

あと本当に大いなる蛇足ですが。

 もう一つ、遊んだ事がある人ならば分かるでしょうが、ゲームブック読者というのはあらゆる選択肢の結果を知りたいと思うものです。何度も冒険を繰り返して、行った事の無い選択を確認することがあるでしょう。たとえそれがバッドエンドだとしても。悪手を選んだ時に訪れる酷い結末――これをどうしても読まずにはいられなくなるのです。他のゲームでそういう欲求をかき立てるものがあるでしょうか。私にはちょっと思いつきません。

ここだけに関しては、かのTYPE-MOONが同人業界を大きく変え、大いなる評価を獲得したノベルゲーム『月姫』があります。
このゲームは、やたらとバッドエンドが多く、死亡するたびに、ナンバリングつきで『教えて知得留先生』というミニコントが出る仕様で、おおいにバッドエンド探し欲をかきたてられたものです。
(直接関係を調べたわけではないのですが)私が最初にプレイした時は、ゲームブックの息吹を強く感じました。

*1:わりと毎回感想を書きつつ、たまに飛んでるのもありますが他意はありません。『伝統ゲーム〜』の第四回や、『クラウゼヴィッツはやわかり』、『ペルディート・ストリート・ステーション』の記事も楽しく読ませていただいております。

*2:http://www.enterbrain.co.jp/pickup/2010/maoyu/

*3:http://www.enterbrain.co.jp/pickup/2010/thermaeromae/

*4:もちろんその上で、最新技術の産物が「あたかも最初からそうだったかのように自然に」遊べるのがいいところです。技術の進歩は、単なる複雑化ではなく、様々な洗練も含まれています。

*5:http://www.harvest-inc.jp/label_other/html/219.html