対談感想その2

予定変更

対談のテーマに関する感想を書いてたのですが、ちょっと気になるカ所があったので予定変更です。

『隠された宝石にまつわる諸事情』

岡和田: おっしゃるとおりですね。インターネットで無料ダウンロードできる私が訳したシナリオの中だと、『隠された宝石にまつわる諸事情』という作品が、それに該当すると思います(http://www.hobbyjapan.co.jp/wh/dl_scenario.html)。

こちら面白そうだなと思って、ダウンロードしまして、原文と見比べておりました。

訳抜け

In tone the scenario makes unashamed use of melodramatic situations and astute readers will note that all the characters are stereotypes. So what? This is a melodrama,you know. Ham it up!
If you feel so inclined give PCs 5 experience points every time they deliver an appropriately corny line, such as “So Count, we meet again,” or “Ah yes, the old bomb down the chimney ploy.”

シナリオのトーンとしては、メロドラマ的な状況が恥ずかしげもなく用いられたものとなっている。だから抜け目ない読者は、登場人物が皆、紋切り型であるということに気がつくだろう。何ゆえに? ご承知のとおり、これはメロドラマだからだ。大げさに演じるようにしよう! [訳注:ここで言う「メロドラマ」とは、いわゆる「昼メロ」のような安っぽい大衆劇のことを指すとともに、17〜18世紀のヨーロッパで上演されていた、野外劇やバロック劇の伝統をも視野に入れていると思われる。フリードリヒ・シラーの戯曲『群盗』(岩波文庫)が、その最良の例として参考になるだろう] 君がものごとにこだわる性質であるなら、「伯爵よ、我らが再会のはこびになるとは」「あっ! ふるーい爆弾が煙突を落ちていくぞー!」などと、台詞回しに凝ってみるのがよいだろう。
(岡和田訳)

重大な相違点として、まず原文では「気が向くなら、プレイヤーが、「伯爵よ! また会ったな!」とか「フッ。煙突から爆弾作戦か。よくある手だぜ!」といった状況に応じた、芝居がかったわざとらしいセリフを言う度に、5点の経験点をプレゼントするようにしてもよい。」とあるのですが、その部分が抜けています。


原作者が、シナリオのトーンを設定するためのロールプレイ支援ギミックとして記述している部分が抜けているのは残念です。
些細な見おとしとは思いますが、修正もしくはエラッタを出していただくと、読者のためになるのではないかと思います。


そして、前後の文脈からすると、ここで著者が言う「メロドラマ」は、「昼メロ」のような安っぽい大衆劇そのものであって、17〜18世紀の野外劇、バロック劇に言及するのはかなり無理があると思います。
シナリオ内容においても「群盗」的な善悪の意義を問うような話*1ではなく、悪党同士が喧嘩する話なわけです。
もちろんTRPGのシナリオなので、GMとプレイヤー次第で深い話にすることは可能です。そこにおいて『群盗』を参考にするのも良いでしょう*2
ですが、文中に特にそれを示唆するような記述はありません。むしろ、corny line(芝居がかった、わざとらしい、陳腐なセリフ)をHam it up(おおげさに演じる)することを推奨しているわけです。
仮に、「群盗」を参考にしたいのであれば、それは岡和田氏個人の意見であり、訳注で書くにせよ、個人の意見として分けて書くべきでしょう。


また"Ah yes, the old bomb down the chimney ploy."は、最後にploy(策略、作戦)がついているので、逐語訳してゆくと「ほう、なるほど。煙突から爆弾が下りてくるoldな作戦か」となります。
この場合のoldは、「煙突から爆弾が下りてくるぞ作戦(bomb down the chimney ploy)」全体にかかり、「古臭い手口」といったニュアンスですね。また、よく口語で使われる、親愛や愛情を表す"old"も入っているでしょうか。
総合すると、「フッ。煙突から爆弾作戦か。よくある手だぜ!」という文章になるでしょう。「ふるーい爆弾」ではないです*3


重箱つつきの揚げ足取りについては、種々ご意見あるでしょうが、岡和田氏も「翻訳とハードサイエンスは相通じるものがある」と書かれているとおり、翻訳は科学的なまでに厳密な技術であり、そうであるからには明かな間違いやミスが存在します。


もちろん、ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』みたいな何をどう訳すのが正しいかどうかわからなん場合は確かにあると思いますが、今回挙げた点は単純な間違い(および訳抜け)と言って差し支えないと思います。


明かな間違いがあるということは、間違いを直せば直した分だけ良くなる(ましになる)のも翻訳です。そのあたりも科学と同じです。
以上の点に対する善処を願う次第です。

*1:美しく愛されるが故に理想に燃えて腐った権力に反発する崇高な犯罪者となる兄と、醜く愛を知らないが故に冷徹で利己的な知性のみを武器とする弟の対立から、善悪とは、幸福とは何かを問う疾風怒濤期の傑作。

*2:『群盗』自体、大変に煮えたセリフと展開で畳みかける話なので、俗悪メロドラマを演じる時にも、参考になります。

*3:)0308修正。ployを見落としてました。