「どうだ! こういう言い方をした方がずっとスマートやで!」

あるいは、どうすればスマートになるか。

用語と拡張

TRPGに、「ヒットポイント」という用語があります。
たいていは、生物の耐久力を表す数値で、合計で、その数値以上のダメージを受けると死亡する、というものです。


ヒットポイントという概念の基本は、「物理的なダメージ」を受け止める「生物の耐久力」ですが、これは、様々な形で拡張されてゆきます。


たとえば、ドアを叩いて壊そうとする時は、「ドアのヒットポイント」という言い方をする場合があるでしょう。城塞を攻城兵器で破壊する場合、「城のヒットポイント」を使うかもしれません。
精神力にダメージを負うような場合も、HPの一種と見なすこともあるでしょう。ハッキングでプロテクトを破る場合も、ダメージ的に管理する場合、「プロテクトのHP」という言い方をするかもしれません。
もっと抽象的に、一般行為判定を累積させて、「ミッション難易度」を削ってゆくタイプのシステムについて、「ミッションヒットポイント」みたいに捉えることもできるでしょう。


そのように、ヒットポイントという用語を拡張して、生物の体力だけでなく、「累積してゆく数値を合算して受け止める時の限界値」全般、みたいに定義する場合、ヒットポイントという用語のままだと誤解を招くので、新しい用語を定義したほうがよくなる場合があります。
例えば、それを「累積損害吸収限度値」とか呼ぶとしましょう*1


ただ、そうした拡張定義は、そのように一般性が必要になってからでいいわけです。


ゴブリンを何回斬れば死ぬかという話をする時に、「この議論では、HPを累積損害吸収限度値の特殊と定義する」「ゴブリンの累積損害吸収限度値15に対して、ロングソードの累積損害寄与値が1D6だから……」とか書くのは、まぁやめたほうがいい。
無駄にわかりにくいですからね。

ちょっとまて、その拡張は、必要か

http://d.hatena.ne.jp/gginc/20100827/1282871487

 その上で、鏡さんも指摘されている通り、「村の人口とかが、行為判定とかと関係をもててないにしても量的データに含まれませんか」という指摘はその通りで、まだ配慮が足りなかったと思っています。僕が今回定義した〈量的情報〉は、行為判定と直接関連づけられた尺度をもつ情報でなければ〈量的情報〉にはならないんです(だから後でindexical dataとも言い換えた)。でも、それは「量的情報」というネーミングではあまりうまく伝わりませんね。

ここで高橋さんの定義する「量的情報」、あるいは「indexical data」は「特定の尺度と結びついて、その尺度の中で一意の意味を持つ数値」なわけです。
TRPGのシステム・データは、TRPGのシステム、行為判定の中で意味を持つ数値というわけで、「indexical dataという一般」の中の、「TRPGに関する特殊」なわけです。
あるいは「indexical data」は「システム・データ」の拡張であると言える。


でも、今は、TRPGのデータの話をしてるわけです。TRPG以外の「indexical data」については触れられてない。
これはつまり、「ヒットポイント」で済むところに「累積損害吸収限度値」を持ち出すのと同じ行為です。


たとえば、そう、「野球におけるindexical data」「TCGにおけるindexical data」「TRPGにおけるindexical data」を、それぞれ抽出して比較する場合なら……。
あーでも、これらも全部「ルール・システム上のデータ」でくくれますし、そのほうがわかりやすいですね。
演劇とかも一緒に入れた場合、演劇にはindexical dataにあたるものがないし、これも「演劇にはルール・システム的な値というものはない」と書いたほうが早い。


「indexical data」が必要な場合というのを、どういう場合で考えているのか、私には分かりません。もしかしたら、それが必要な局面が高橋さんの中にあるのかもしれない。ただ、「indexical data」を持ち出すなら、そうした拡張、一般性が必要になってからでいいわけです。
そうしなかったので、「ゴブリンの累積損害吸収限度値は5です」というような文章になります。
HPでいいじゃん。システム・データでいいじゃん。

ギミックマニュアル?

一方で、シナリオをギミックマニュアルと言い替えることには、これは拡張する必然性があります。


TRPGのシナリオといった場合、実際には、おおまかなプロットが決まっていて、強制イベントがあるタイプの場合もありますし、もっとゆるやかなイベント連鎖のタイプもありますし、マップとNPCの行動原理だけ決まっていて、あとは全部流れ次第というような場合もあります。
プロット重視のシナリオだけではなく、色々なタイプのシナリオ全体、というのを強調したいために、より一般性のある用語を定義する必然性は、それなりにある。


ただ、これは、Vampire・Sさんが指摘していることですが「ギミック・マニュアル」と言って「一連のゲーム的仕掛けを記した手続き書のこと」と定義してしまうと、今度、普通にプロットがあるタイプのシナリオが外れてしまうことになる。
これは、一般性のある用語を定義したつもりで、その中に誘導が混じるという悪い例です。
あと、やっぱり、わかりにくいですしね。

スマートな言い方のために

私がスマートでわかりやすい文章を書く時に心がけているのは、「独自用語をできるだけ使わないこと」です。


「独自用語」「独自概念」というのは、安易に使おうと思えば、いくらでも使えるわけですが、それは往々にして、作者のオナニーに終わりやすい。
概念の拡張も同様で、拡張なんてやろうと思えば、いくらでもできますが、たとえば、「TRPG」を「人間の営み一般」に拡張したってしょうがない*2


自分の論旨をきちんと整理し、理論を出す時に、必ずその具体例を同時に思い浮かべるようにしてゆけば、独自用語は自ずから削れてゆくものです。

*1:あんまりいい名前じゃないのは自覚してます。拡張ヒットポイントくらいのほうがわかりやすいかもしれませんね。それだと後半につながらなくなるので、説明的な名前にしていますが

*2:これは笑い話ではなく、この世の概念のほぼ全てはsymbolicですし、残りの概念じゃない指標やらデータやらはまとめてindexicalなわけで、ものすごく拡張しまくった概念です。TRPG、せめてゲームに関する話題、説明からは離れすぎている