管理の諸形態
人と人が遊ぶ時、「楽しめる範疇」と、それを越えた「不快な範疇」が存在します。
どのような遊びであっても「不快な範疇」にゆかないように、より楽しい範疇にゆけるように、様々な制限/誘導/管理が存在します。
TRPGにおいても、もちろん存在します。
ここではGMによる管理に注目します*1。
描写という誘導
「君たちは町についた。小さいが活気のある町で、宿屋と酒場が一軒ある」
よくあるファンタジーTRPGの情景です。
この文章を聞いたプレイヤーは、基本的に、酒場か宿屋に行くでしょう。特に情報がない限り、そのへんの民家や、道ばたに歩いている人に注目したり行動したりすることはないでしょう。
実は、これは、GMによる誘導なのです。
リアルに考えてみれば、「小さな町」に存在するもの、起きていることは無数にあります。
まず民家が沢山建っているでしょう。一軒ずつ違う民家が様々な形や状態で存在しています。
通行人は沢山いるでしょう。年齢や性別、職業、外見、性格、名前も様々でしょう。
宿屋や酒場以外にも、様々なお店があるでしょう。
ですが、プレイヤーのキャラクターが目にするはずのもの、全てをGMが言葉で語ろうとすると、多分、何時間もかかってしまいます。
そこで、GMは、圧縮した情報をプレイヤーに伝えます。
その結果が「宿屋と酒場が一軒ある」です。
この時、GMは暗に、「宿屋と酒場にゆくとイベントがあるかもね。町の中の他のオブジェクトは今のところ重要じゃないよ」と告げています。プレイヤーも、基本的にそれを理解して、対応するでしょう。
この時、GMは「あっちに宝が、こっちからモンスターが」といった露骨な利益誘導もしていませんし、「宿屋に行ってくれ」というような指示も出していません。
ですが、このような、単純な情景描写の積み重ねで、GMは、ストーリーの行く先をコントロールできます。
逆の話、プレイヤーキャラクターの行動に対し、GMが何をどう描写したところで、こうした「誘導」は、入ってしまう、とも言えます。
熟練したGMであれば、こうした誘導に自覚的でしょう。
逆に、自覚的でなかった故に、誘導が暴発した経験はないでしょうか?
GMが特に何も考えずに出した情景描写や設定を、プレイヤーが「これは何かあるに違いない」と思って、どんどんそっちに行こうとして困る、と、言った例です。
うまいGMだったら、そういうハプニングをストーリーに組み込んで、「なんかあった」ことにして進めるという楽しみもありますが、いずれにせよ、描写=情報制限による誘導には自覚的になるべきだ、とは言えるでしょう。
消極的な誘導
私は、特定のシナリオを作らず、設定やNPCだけ用意して、プレイヤーの行動をできるだけ大きく取り込みつつ進めるタイプのセッションを行うことがあります。
いわゆる「自由な」タイプのプレイングですね。
ですが、そういうタイプのセッションであっても、上記のような誘導は不可欠になります。
プレイヤーは何をして、どこに行くのも自由ですが、行った先々での描写はGMが提供する必要がありますし、プレイヤーは、おおむね、その中から選択してゆくことになります。
これらは、消極的な誘導ではありますが、誘導効果としては、大変に大きく、プレイヤーの行動を大きく制限、誘導しているものとなります。
積極的な誘導
情報提供による誘導以外にも、様々な誘導/制限があります。
・システム、ルールによる制限:システムによってプレイの方向性が規定され、PCの出来ること出来ないことが決定される。
・状況による利益誘導:PC、PLが欲しいもの、嫌がるものを作り出して、それによって誘導すること。
・GMの意志表明:GMがPLにしてほしいことを、直接告げること。
他にも色々あると思いますが、代表的なのは、このへんでしょうか。
誘導の露骨さで分けると、以下のような感じになると思います。
露骨さ小 情景描写による誘導<システム、ルールによる制限<状況による利益誘導<GMの意志表明 露骨さ大
誘導の目的
さてさて、露骨な誘導は、ある種の美意識からすると「みっともない」あるいは「身も蓋もない」といった評価があると思います。
ま、そこにも一理あるとは思います。
露骨な誘導を下手にやると、プレイヤーのやる気を殺ぐ場合があります。同じ効果を達成できるなら、「露骨でない」誘導のほうが良い場合が多い。
とはいえ、それは程度問題です。
露骨な誘導をした結果、うまいこといった場合と、露骨な誘導をしなかった結果、全員がつまらないと感じるのは、どっちがいいか、という話です。
つまらない、というのにも色々あって、「失敗して悔しい」とか「うまくゆかなかったので反省」とかは個人的にアリですが、「不愉快な気分になった」「プレイヤー間で喧嘩が起きた」とかそういうのは、全力で回避したいな、と、思っています。
誘導の使い分け
最初に書いた通り、誘導は、TRPGを面白くするために、不快なことを避けるために行うものです。
そのためには、どういう使い分けが良いでしょうか?
私は、以下のように考えています。
1.枠の設定
まず、プレイヤーがやれること、やれないことの大枠を設定し、これをプレイヤーにわかりやすく伝えます。
「今回はこういうセッションで、こういうことをやります」というのを、誤解のないように伝えます。
「システムによる制限」「GMの意思表明」などを使います。
2.選択肢の提示
ただ、「何をしていいよ」と放り出されても、プレイヤーは困ります。
かといって、一本道な状況を提示されると不自由です。
その両方に偏らないように、適度な選択肢、あるいは、とっかかりを登場させ、その中で、プレイヤーに好きに選んでもらいます。
ここは「情報制限による誘導」と「状況による利益誘導」あたりががメインとなります。
3.突発事態への対応
基本的に、枠の中で、どの選択肢を選んでもらっても問題がないように配慮しますが、枠を伝えたつもりで伝え損なっていたり、明らかに想定ミスで、「そっちゆかれるとどうしても困る!」という事態が発生します。
こういうことが起きた場合、慣れないGMは「状況による利益誘導」でムリヤリ引っ張ろうとします。プレイヤーは、やろうとしていることを邪魔されると、かえってやる気になるんで、そこでこじれる可能性が高い。
俺は、「GMの意思表明」、すなわち、「ゴメン! お願い、それは困るんで、こっちいってくれ!」と、直接プレイヤーにあやまって、お願いするようにしています*2。
捕捉・強い誘導は最初にやれ
上記をまとめて、気づきましたが、強い誘導=プレイヤーの選択肢を大きく狭める誘導は、ゲームの最初にやるのが良いようです。
つまり、誘導されてイヤなのは、自分のやろうとしたことが出来なくなった場合なので、最初に「今日はこういうのをやろう」と提示する分には、問題ない。
ルール、システムによる制限もそうですし、ハンドアウトなんかも、キャラメイクの最初に配りますね。
逆に、ゲーム中に、予期しない制限を喰らうのは、反感、不満の元です。
つまり、強い制限、露骨な制限も使いよう、ということですね。