ゲームと非ゲーム

TRPGは競技と競技でない部分を併せ持ち、それぞれに評価の基準が違う。

競技なるもの

ゲームの基本は、競技、すなわち、競うことである。プレイヤー同士で競争するというのもあるし、記録行使や、特定の課題に挑戦するというタイプもある。


競技の本質は、成功/失敗や、得点、記録等として評価できることである。

エレガントな解答をもとむ

■高橋2007「TRPGセッションにおける〈プレイング〉の課題」
1. 「ゲームマスターから与えられた目標にできるだけ近づくこと」。(課題1)
2. 「背景世界およびキャラクターの役割や性格、他PCとの関係などをできるだけ適切に解釈すること。(課題2)
3. 1と2、両方の課題をできるだけ無矛盾に解決するようにプレイすること。

http://d.hatena.ne.jp/gginc/20080303/1204513902
id:gginc氏がロールプレイングについて述べた文章。TRPGで、このようにプレイをするのが一般的であることは全く同意できる。課題2については、また、「システムに規定された〈背景世界〉や〈キャラクター〉にまつわる〈制限/情報〉を守り、有効活用することを通じて、〈キャラクター〉の行動に一貫性を持たせること。」とも言い替えられており、これも納得がゆく。


さて。上記の課題達成を、あくまでもゲーム、競技、解決すべき命題として考えた場合、クリアは簡単である。なるべく最初から、課題1と課題2が矛盾しないような設定にすればいいのだ。単純にいうなら、ひたすらクエストの解決に熱心なキャラクターを設定しておけばいい。


だが、いわゆるお行儀がいいキャラクターが、必ずしも望ましいとは限らない。
我々は、一癖も二癖もあるキャラクターが、うまく、課題1と課題2の矛盾をクリアして、共同で物語を作ることを評価する(時もある)。ウォーハンマーリプレイの中で、id:gginc氏も、そうしたプレイを目指しているように見える。


さて、なぜだろうか?


端的に言うなら、ここで求められているのは、課題のクリア、ではなく、その過程なのだ。課題をクリアすることに加えて、「どうやって面白く課題をクリアしたか」が重要なのだ。


自分のキャラクター、他人のキャラクター、世界設定、状況設定を、できる限り多く含み単に含んでいるだけではなく、そこに様々な必然性があり、システムの雰囲気に合致していて、ついでに意外性があったりする。例えば、そういうクリアの仕方が「面白い」*1


いわば「エレガントな解答求む」というわけだ


TRPGのロールプレイング、というのは、多くの場合、そういう面白さが評価される。

なぜ課題があるのか

視点を変えれば、課題というのは、そういうエレガントさ、面白さを作るための、枠、条件であるとも言える。


何の制限もなく、何をやってもよいところに「エレガントなプレイ」は生まれない。さまざまな縛りを入れて、それを無矛盾にかつ美しくクリアするところに「エレガントなプレイ」が現れる。


GMが提示した目標や、各種世界観というのは、そうした縛りを提供することで、エレガントなプレイを生み出すためにある。

TRPGとミッション無視

こう考えれば、昔からある、一つの問題に納得がゆく。


TRPGというのは面白いゲームで、GMから目標が提示されはするが、目標をクリアしないことが、必ずしも失敗とは限らない。「ゲーム」として考えた場合、勝利条件を自主的に無視する、というのは、有り得ない仕様だ。
このへんは昔から取りざたされてきた。


つまり、TRPGにおいては課題達成自体が目標なのではなくて、課題という制限を置くことで、「エレガントなプレイ」を促進することが目的なのだ。
そう考えれば、例えば「エレガントなプレイ」である限りにおいて、ゲーム目標が変化したり無視されたりすることも納得できるだろう*2


前回の記事で書いた、カオスフレアのフレアの受け渡しも、この「エレガントさ」に大きく関連している。なぜフレアを受け渡す時に制限、メリットデメリットが設定されてないかといえば、それは互いに面白い物語を紡ぎ上げる時の意思疎通、あるいはまた面白い物語の一部として機能しているからなのだ。


さてゲームの場合、与えられた情報から選択肢が存在し、それぞれにメリットデメリットがある。だから、どれを選ぶか悩ましい。それが、意志決定の面白さだ。
一方、TRPGにおいて「エレガントさ」を追求する際は、選択肢は存在するかもしれないが、別にメリットデメリットがある必要はない。皆でメリット……すなわち面白い、美しいと思ったストーリー/展開/ロールプレイを、好きなだけ限度無く積み重ねてゆけばよい。それは全員で協力するものであり、かつ、課題と競争するものではなく、それ自体が面白いものだ。


以上より、TRPGにおけるロールプレイは、ゲーム/競技の面から捉えるよりも、トイ的な協力プレイと考えたほうが、評価、理解がしやすいだろう*3

*1:例えば、に、注意。何がエレガントで、何が面白いか、というのは主観の領域であり、システムやセッションで様々に異なる。ここで述べてるのは筆者の好みがかなり大きい

*2:念のためにいうが、TRPGのほとんど全ての局面において、GMから提示される目標を重視することは、エレガントさの観点からも、それ以外の観点からも重要である。ゲーム目標にパーティの全員が絡むことは、エレガントさの重要な要素でもある。そもそもゲーム目標を安直に無視すれば、ゲームを破綻させたり、他の人が楽しめなくなる。

*3:単純に最後までトイ的とは限らず、ゲーム的な課題と同時進行で、トイ的な課題も進行してゆく、ということ