「初心者向け」の記事を書く時に陥りがちな間違い

要約

初心者向けの勧誘記事を書く時に、ついつい陥りがちなミスは以下の3つ。

  • 悪い点を強調する
  • 相手のほしい情報が載っていない
  • 上から目線の説教

その原因は、それぞれ、

  • 苦労自慢
  • 知識自慢
  • 経験者自慢

である。
人間は自慢したがる生き物であることを自覚した上で、自慢にならないように注意しなければならない。

ありがちなミス

初心者紹介向け記事で、初心者が気になる点を説明、フォローしようとして盛大に自爆している場合がよくある。
よくあるのは、ネガティブキャンペーンになってしまっている場合である。

ネガティブキャンペーン

以下の例文1、2、3を見てみよう。

例文1:
○○○(システム名)は、データがすごく多くて、初心者は果たしてこれだけのデータを扱いきれるのかと心配になるかもしれない。
でもそんな心配はいらない。きちんと整理されているから誰でもキャラクターが作れるんだ。
例文2:
○○○の特長は多彩なキャラが作れることだ。豊富なデータを順番に見ていくだけで、すぐにイメージ通りのキャラクターが湧くようになっている。

例文1より例文2のほうが、とっつきやい印象があるのではないかと思う。
例文1がなぜ問題かといえば、以下の2点だ。
1.聞かれもしないのに欠点から入っていること
2.そもそも、その「豊富なデータ」とやらに、どういうメリットがあるのかが書かれていない。


記事の目的が紹介・勧誘であるのなら、まず、そのゲームが面白くて遊んでもらえる理由を最初に書く必要がある。
もちろん公平な視点で欠点に言及することがいけないわけではないが、少なくとも、「遊ぶ理由」より先に欠点を述べるのは馬鹿馬鹿しい話だ。


そもそも○○○を知らない読者が「え? ○○○ってデータがすごく多くて難しいの?」と思ったら、その後から「難しそうに見えるけど、ほんとは難しくない」と言われても、マイナス印象は拭いがたい。
仮にデータが多いことを心配している初心者を対象だとしても、この言い方では、マイナス印象だけが残る。


例文2は、その観点に立って書いている。
「データが多いから、多彩なキャラクターが作れる」という長所、遊ぶ理由を、最初に押し出して、わかってもらう。
「データが多いと難しそうに思えるかもしれないけど、実は簡単だよ」というフォローは、その後でいい。


もしもデータが多いという点が、初心者のつまずきやすい点で重点的なフォローが必要だと思うのであれば、例文3のように、紙幅を割いてもよいだろう。

例文3:
○○○の特長は豊富なデータで多彩なキャラが作れることだ。沢山のデータを完全に使いこなすのは多少の慣れがいるかもしれないが、最初から全部使いこなす必要はない。それについては後述する。

その場合、じっくりと時間を掛けて実用的な記事にする必要がある。
重要な問題について語るなら、片手間で語るのは良くない、というわけだ。

聞いてない、そんなことまで聞いてない

もう一つありがちなミスは、無駄情報の氾濫だ。

例文1:
「○○○って、どんなワールドのTRPGなんですか?」
「○○○の世界は、そもそも原初の一なる世界があってね。これが地上界、天上界、不思議海の三つに分裂し、それぞれの世界における英雄戦争がはじまってどうたらこうたら」
(中略)
「というわけで、科学の世界と魔法の世界が戦争することで、互いの技術がまざりあって、今の○○○の世界が生まれたんだ。○○○の世界は科学と魔法が併存するんだね」
「はぁ……」
例文2:
「○○○って、どんなワールドのTRPGなんですか?」
「一言で言うと、ファイナルファンタジーみたいなやつかな。科学と魔法が併存してて、バイク乗りながら剣ふりまわして魔法をぶっぱなすみたいなやつ。エルフやドワーフと同時に、サイボーグとかアンドロイドとかもできるよ」

例文1は、懇切丁寧な、基礎からの説明を目指した結果、自爆した例である。
基礎から全部説明するというのは、それはそれで合理的な順番なのだが、少なくとも「相手に興味を持たせる説明」ではない。
興味ない世界の神話についていきなり聞かされても、つまらないわけだ*1


ストレスを与えない説明のためには、まず、全体のおおづかみなイメージを与え、そこから相手の興味に従って細かいディティールを伝えてゆくのが有効である。
心の中に「枠」を設定し、そこにディティールというピースをはめ込んでゆくわけだ。


逆に、おおづかみのイメージを持てていない状況で、ディティールを説明されるのは苦痛である。絵柄も枠もない、ピースだけ渡されるようなものだからだ。


TRPGの場合、「おおづかみなイメージ」というのは、まず「プレイに必要な情報」あたりとかぶる。
それは世界の風景や、選べるキャラクター、キャラのできることなどになる。


上記は世界設定になるが、ルールにせよ、さまざまな用語にせよ、重要なのは、相手がほしい情報を整理して渡すことだ。
そこをミスると、聞きたくもない情報がやたら詳しくて、知りたいところが載ってなかったり中途半端だったりする記事になってしまう。

よけいなフォロー

初心者向けに、大ざっぱにわかりやすく説明することは必要な上で、一方で、不正確さを生む。
その時に、やりがちなミスがマニア向けのフォローを同じ記事の中に入れてしまうこと。

例文1:
「召喚師ですが、ハリー・ポッターの守護霊の呪文みたいなものを想像してください。そうした守護霊を呼び出して自分を守ったり戦ったりする職業です。」
注:
もちろん、守護霊と召喚獣は別のクリーチャーだ。ただ、今まで遊んだことのない世界を遊ぶプレイヤーがとまどっている時は、不正確であっても具体的な例を挙げるに越したことはない。
例文2:
「召喚師ですが、ハリー・ポッターの守護霊の呪文みたいなものを想像してください。そうした守護霊を呼び出して自分を守ったり戦ったりする職業です。」
注:
より細かい説明をすると、召喚師が呼び出すものは召喚獣といいます。ややこしい話になりますが僧侶の能力で「守護霊を呼び出す呪文」というのが別にありますので、区別されます。召喚師の呼び出す召喚獣は、狼やフクロウといった動物や、グリフィンのような幻獣が主で、僧侶の呼び出す守護霊は、天使や悪魔といった存在になります。

例文1だが、これを読むと初心者は、せっかく理解したことを、「本当は間違い」と言われ、一方的に初心者扱いされて不愉快な気分になるだろう。
しかも、どこがどう間違ってるのかは教えてもらえないのでストレスだけが残る。


初心者向けの記事であるなら、判ってるマニアが重箱をつつくのは放置すべきであって、細かく言い訳をするのはかえって初心者を遠ざける。
もしそこにフォローを入れるのであれば、マニアのほうではなく、初心者のほうを向いてフォローすべきなのだ。
例文2は、そのように初心者を向いたフォローをした例である。
細かいことと前置きした上で、知らない人でも納得できるように、きちんと説明している。

説教

ゲームのコンセプトやプレイのやり方を説明しているつもりが、いつのまにか説教になってしまうというものだ。
例文を見てみよう。

例1:
昨今のTRPGは、固定した展開による安直な勧善懲悪シナリオしかできないものが多い。そうした葛藤のないゲームはTRPGの可能性を限定するものであり、そうしたTRPGだけプレイして、TRPGに愛想を尽かす人がいるのは悲しいことである。
○○○は、TRPG本来の可能性を取り戻すために、そうしたくだらない一本道を破壊している。葛藤と決断、苦悩と悲しみにみちたセッションをプレイすることで、より高見を目指したプレイができるのだ。
例2:
○○○は、色々なシナリオを作れるところがウリです。皆の友情で悪を倒して美女に感謝されるといった王道もできる一方で、善悪の狭間に悩んだり、悪側についたりといったシナリオも、無理なく遊べるように色々なシステムが搭載されています。

例2では、「様々なシナリオがプレイできる」というシステムの特長について書いている。
例1では、システムの特長を説明しているはずが、「TRPGとは、どのように遊ばれるべきか」という上から目線の説教になっている。


例1ほど、あからさまなのは珍しいかもしれないが、あるシステム、コンセプトの素晴らしさを伝えようとする内に、無意識に、他のシステムを貶してしまったり、プレイスタイルを押しつけたりしてしまうことは、大変によくある。
重要なのは、相手が面白いと思ってくれる要素を提示することで、説教して押しつけることではない。

原因

なぜ、このような間違った初心者向けの文章を書いてしまうのだろうか。


性悪説的な観点に立つが、人間というのは、基本的に、人の話を聞きたくなくて、自分のことだけを聞いてほしい生き物である。
どんな文章であっても、本来は「相手にわかるように伝えること」が目的なのに、「自分にとって面白い自分の話」をしてしまいやすい。


「初心者向け」というカテゴリは、書き手の「熟練者」というエゴを刺激し、「熟練者の自分語り」を誘発する点があるのだ。


なぜ、熟練者は、システムのネガティブな点を語るかといえば、「そういうネガティブなところをクリアした熟練者の俺カッコイイ」という下心があるからだ。
余計な知識を長々としゃべるかといえば、「難しい設定を知ってる熟練者の俺カッコイイ」だし、マニア向けに言い訳するのは、自分がマニアであることを誇りたいからだし、上から目線の説教は「熟練者の俺の説教をおまえら聞け」ということになる。


そういう勘違いした人間がいる、という話ではなくて、xenothも含み、注意に注意を重ねた上で相手の気持ちを考えて書いても、そういう要素は入り込みやすく、完全に抜き去るのは難しい。
だから気を付けようという話だ。

*1:もちろん、神話に一番興味がある人もおり、相手に合わせてそういうところから入るのはありだ