TRPGと物語性、あるいは、なぜTRPGはジャンプ化するか

TRPGは物語を作る装置でもある。一方で、現状のTRPGの作る物語の多くは、戦闘→戦闘→ハッピーエンド的な、素朴な、あるいはある種のラノベ的なものが多い。
このへんについて考察する。

物語性

さてさて、物語性を語る時に、構造の複雑さやテーマの抽象性を持って、貴賤を語る人が多い。
その延長で、TRPGのストーリー構造、テーマが単純なことをして、発展途上だ、という人がいる。


これは完全に間違いだ。


進化したラノベは、文芸作品になるわけではない。より面白いラノベになるだけだ。
ストーリーが単純か複雑か、テーマが高尚かどうか、というのは、ジャンルや好みの差であって、出来の差ではない。
黄金パターンの作品を面白く書く、というのは、奥が深い技術だ。
中身を小難しくして、気取ったテーマさえ選べば、良い作品になるか、というと、そんなわけはない。
ラノベ的な、戦闘→勝利→ハッピーな物語構造を追求するTRPGが進化したら、より面白い黄金パターンの物語ができる、というだけだ。


それとは別に、なぜ、それ以外のパターンの物語がTRPGの中から、あまり出てこないのだろう*1、という疑問は当然あっていい。


以下は、それについて考察する。

努力

さて、TRPGはゲームである。
ゲームであるからには、良手、悪手と、それに基づいた戦略性が存在する。良い戦略には、良い結果がつく。選択の合理性が保証されている、というわけだ(ランダム要素が多すぎて、戦略の意味がないゲーム、というのは、ゲームバランスの悪い、糞ゲーの類だ)。


これを物語に当てはめた場合。
「選択の合理性が保証されている」=「良いことをすれば良い結果が出る」
ということになる。


つまり、典型的なTRPGでは、努力が報われることが、必然的に保証されているのだ。

友情

基本的に、TRPGは、協力型のゲームである。異なるリソースを持つPCが協力しあうことで、ゲーム性を複雑なものとしている。
言い替えれば、パーティが同じ目的に向かって行動する。


ここにおいて、ストーリーの基本的なテーマは全員一致した単純なものであることが求められる。
つまり、友情が報われることが、必然的に保証されているのだ。

勝利

TRPGはゲームである。
ゲームであるからには、まず目的が存在し、勝利条件が存在する。勝利条件は、基本的に、頑張れば達成できるものである(どうやっても絶対無理な勝利条件のゲームというのは、まぁ糞ゲー、糞シナリオだろう)。

これを物語に当てはめた場合。
「達成可能な勝利条件が存在する」=「頑張れば夢は叶う」
ということになる。


つまり、努力の末の「勝利」が、必然的に保証されているのだ。

努力+友情+勝利

というわけで、TRPGでは「努力」「友情」「勝利」の三本柱が存在する。
言い替えれば
「頑張れば夢は叶う」
「努力は報われる」
「頼れる仲間がいる」
というわけだ。
「努力・友情・勝利」というのは、往年の少年ジャンプの三題原則である。
要するに、TRPGが、ゲームとして、まっとうなものである限り、少年漫画的な展開が約束される、ということだ*2


逆に考えて、いわゆる「リアリティのある物語」には「ほろ苦い結末」とか「不条理な展開」がつきものだ。それをTRPGでやる場合を考えてみよう。
PLがリソースを管理して有利な行動を積み上げてるのを「不条理な展開」でチャラにされたら、やってられないだろう。
そうやって頑張った結果、当初の目標である「ハッピーエンド」ではなく「ほろ苦い結末」を押しつけられたら、ムカツクだろう。


ムカつく理由は、自分に都合のいいハッピーエンドしか認められないから、というわけ(だけ)ではない。
ゲーム性を信頼し、それに沿った行動をしたことが、裏切られることが問題なのだ。

視点

努力友情勝利に加えて、物語の構造を制限する点を、もう一つ。視点の問題である。


小説などの物語の場合、受け手は、複数のキャラクターに感情移入することができる。であるから、一人にとっての不幸が別の人にとっての幸福であったり、お互いの思惑が絡み合ったりすれ違ったり、というところに面白さを感じることができる。


一方で、TRPGの場合、プレイヤーは自分のPCという一人のキャラクターに強烈に感情移入する。もちろん小説等も主人公や視点キャラに感情移入するわけだが、TRPGのほうが構造的に、自分のPCに感情移入が集中する。


TRPGにおいてPLは自分のPCを通じて幸福、不幸を感じ取るわけで、「全体の機微」を掴むのが難しい、とも言えるだろう。

より複雑な物語性を求めて

以上、TRPGにおいて、複雑な物語性を制限している構造的な理由を二つあげてみた。
逆に言うと、これを回避できる形のシステムがあれば、より複雑な物語が紡げることになる。


複雑であることは、単純であることより高等なわけでもなく、複雑だから面白いというわけでもないが、多様性という面……色々なTRPGがあったほうが楽しいよね、という面では歓迎されるだろう。
では、どのような試みがあるかを、次の稿で探ってみよう。

*1:単に見落としているだけ、という話も、もちろんあるだろう

*2:少年漫画は言い過ぎとしても、ポジティブで明確な世界観だ。