TRPGと出版不況

石頭さんの記事。

はっきり言えば、”出版点数は増えていて、販売部数は減少している”つまり

自転車操業状態になっている

んだよ、我らの愛すべき出版業界、その寄生虫たるTRPG出版業界は。」

http://stonehead.cocolog-nifty.com/ishi/2008/03/trpg_efc2.html
これに対する私のブクマコメント。

xenoth 出版業界全体の不況と各部門の状況は一緒に語れない(少年ジャンプは4割返本青息吐息か?)。出版点数を富士見ドラゴンに限って見るなら、点数増える=他のラノベから点数を奪ってる=売り上げ増大、である。

http://stonehead.cocolog-nifty.com/ishi/2008/03/post_e191.html
それに対する追記。

「なんかよ、ハテナブックマークっていうサイトウォッチでよ、”ライノベルと他の出版物は一緒にできない、富士見ファンタジアは他レーベルから売り上げを奪っている”とかほざく頭の沸いた奴がいるからよ、もしかしてそんなこと思っているやついるわけねえよな、とか思うんだけれどよ、念のためのフォローするわ」

ブクマの短いコメントでまとめようとして、誤解を招いてしまったようです。
トラックバックを送らせていただきます。


1.出版不況が全体に影響してるのは間違いない。
2.一方、出版不況の中でも、伸びてるものや、比較的不況になってないものもある*1
3.TRPGがどうなのかは、最初に石頭氏が提示したデータだけでは、なんともわからない。


さてさて出版点数を増やして目先の売り上げを稼ぐ、という方法論があるのは確かです。ただ、それは一定の枠・棚が確保されてる場合です。
富士見ドラゴンの場合、なにせ「TRPG売れないから、富士見ドラゴンの点数を削る。そもそも出さない」というフェーズがあったので、それに比べて、今、出版点数が増えている、というのは、売り上げが確保できている証拠だ、という話をしています。


「年間3冊」→「年間28冊」になって、出版部数が全く増えてない、というのは、非合理的ですね。
ここで、増えた分の「年間25冊」は、どこから来たのでしょう?
市場が増えた、あるいは「富士見ファンタジア」が出すラノベの点数が削れた、とは考えられませんか?
富士見ファンタジア+ドラゴンで利益を出してると考えるなら、ドラゴンが増えたということは、ファンタジアとの(あるいは他のラノベとの)競争に勝っている、ということなのです。
私が書いたのは、そういうことで、「富士見ファンタジア文庫が他のレーベルから利益を奪ってる」という主張ではありません*2


もちろん、これは、富士見ドラゴンの売り上げであって、TRPG業界全体の、というわけではありません。ただ、データの分かってる部分の一例ということです。

「まずここ見ろよ ライトノベル売り上げwiki
「これ見てわかんだけどな、富士見で売れてるレーベルは新規ではほとんどねえのよ。あんだけ富士見は毎月出してて、新刊ではレギオスだけってどういうことだっておもわねえ?もうひとつは老舗のフルメタルパニック!だぞ、こらどういうこった?」

さてさて、富士見ファンタジアがラノベ業界の中で売れている、という主張をしてるわけではありませんが。amazonと一般書店では、売り上げの傾向が、かなーり偏るんで、これだけで、富士見が売れてない、決めつけるのはどうかと思います。
一例を挙げるなら、amazonで買い物できるのは、クレジットカードを持ってる大学生以上がメインなのですが、富士見の対象年齢は、中高生をメインとしたものが多いと思います。高年齢層を狙う電撃がamazonで強いわけです。

ソードワールド2.0の、隔月間になっちまった今月のドラゴンマガジンの中で占めるリプレイのページ数と印刷色で気付けよ。めちゃくちゃ少ねえだろうが。いっとくが旧ソードワールドのかつてのドラゴンマガジンでの扱われ方(ページ数他)、その後連載していった旧ソードワールドリプレイのページ数(時にカラーあり)、更にはソードワールド特集記事(基本カラーあり)と比較してみろ。凋落が一目瞭然だからよ。

はい。全盛期に比べりゃ、凋落していますね。
私が言ってるのは、その上で、冬の時代に比べりゃ盛り返し傾向にあるんじゃないか?という主張です。

いっとくがSNEが株式会社として、TRPG出版物を出す執筆編集プロダクションとしては最大だろうがよ。FEARは結局有限会社とまりなんだぞ。株式と有限だと社会的信用が違うのよ。大手出版社とのパイプをもっていて、ようやくやってこの扱い。何を意味するか考えろよ。期待されてねえんだよ。TRPGのプロ連中は、もうほとんど”リプレイ製造機械”安価なライトノベルもどき製造機以上には期待されてねえんだよ。結構コストパフォーマンスとして高いんだろ。一人の作家を難儀させるよりも、GMとPLでセッションしたのを”半分以上時には9割以上改変編集して”リプレイとして出せば、売れるわけよ。読みやすいしな。だけどあれは”極めて読者の嗜好にあうように都合よく編集、改変されたリプレイ風ト書き小説”だぞ、実際は。

株式と有限だと社会的信用が違う。なるほど。
例えば、京極夏彦は、株式会社は持ってないと思いますが、出版社の扱いは大変に大きく、企画も通しやすいでしょうね。出版業界における信用は、必ずしも会社組織で決まるものではない、ということです。


まぁさておいて。ラノベ業界でのTRPG売り上げは、リプレイがメインだろうとは思われます。
それについて出版業界の側が、TRPG業界を「一定の売り上げを確保できる読み物を確実に提供してくれる集団」と評価してくれるなら、それってのは、非常に高い評価ですね。大賛辞と言ってもいい。
一方、TRPG業界からすれば、リプレイを入り口としてTRPGルールの売り上げ、ユーザーが増えてくれればいいわけで、それはまたリプレイの売り上げ増加にもつながる。お互いに望ましい関係というわけです。
無理に卑下されてるように思うのですが、いかがでしょうか。


リプレイが「都合良く編集・改編」ということですが。例えば、テープ起こしをされたことはありますでしょうか?
生のテープ起こし原稿というのは、本当に読めたもんじゃありません。あれをきちんとまとめるには「編集・改編」が不可欠です。
読者の嗜好に合うようにってのは、当たり前の話ですね、売り物ですから。面白く、読みやすくするために編集するのは、当然のことです。
あるいは、リプレイは、TRPGをプレイする参考にはならない、リプレイによってユーザーは増えないと、お考えでしょうか。
それは私は違う、と、思いますが、また別の話になりますね。

メタルヘッド/D20の失敗で更に顕著になるだろうな。今後TRPGは、ソードワールド2.0ともうひとつのSNEの新規TRPGの売り上げ如何によっては、オリジナルルールの製作を基本的に、依頼されなくなるかもしれない。基本版上げ。ソードワールド2.0は既に同じソードワールドという名前をつかっただけののオリジナルだ」

TRPGの企画って、「依頼」じゃなくて持ち込みでしょうねぇ、普通。まぁ不況になったり、売れない製品出したりしたら、企画が通りにくくはなるでしょう。ただ、D20メタヘが売れなかったとから、それで富士見書房が「以後、TRPGとおつきあいは控えさせていただきます」と言うとはあまり思えないですね。
富士見書房にとっては、アリアンロッドダブルクロスの売り上げが、TRPG企画を受け入れるかどうかの一番大きな指針でしょう。
被害妄想が混じっているように思われます。

つうか、なんで富士見ファンタジアが売れてんだったらよ、ドラゴンマガジンは隔月間になんだよ?雑誌は売れねぇけど、文庫は売れてる?そりゃねえよ、雑誌の売り上げと文庫の売り上げはある程度相関関係にあんよ。雑誌みねえと面白い小説、文庫になるのがわかんねぇべよ。富士見ファンタジアっていうレーベルそのものがやべえんだよ、そして広げれば全体だ。ライトノベルレーベル全体がやべえのよ。もしかしてこの事態に本当にTRPG出版業界は関係ねえとか思ってんのか?」

繰り返します。富士見ファンタジアが安泰かどうかは知りません。
その上で、ここ最近の出版業界で、「単行本が売れても雑誌が売れない問題」というのは、お聞き及びではないかと思います。
かつては「雑誌みねえと面白い小説、文庫になるのがわかんねぇべよ」という理由で雑誌を買っていた人が、ネット書評などの発達で、雑誌を買わずとも十分に面白そうなタイトルを探せるようになったからだ、と、言われています。


さてさて。出版不況がTRPGに影響している可能性はおおいにあると思います。が、憶測のデータだけで危機感を煽るのも、馬鹿馬鹿しい話です。


1.出版不況が全体に影響してるのは間違いない。
2.一方、出版不況の中でも、伸びてるものや、比較的不況になってないものもある。
3.TRPGがどうなのかは、最初に石頭氏が提示したデータだけでは、なんともわからない。


と、最初に書いたとおりです。
そして、富士見ドラゴンの出版点数の増大を、マイナス要因でだけ捉えることができない、というのも、書いたとおりです。


さらにいうなら、SNEとFEARとスタジオ因果横暴とイエサブでも、それぞれヤバさも置かれた状況も違うでしょうし、基調としての出版不況はありつつ、単純に十把一絡げで陰謀論のように語るのは、無意味ではないでしょうか。

出版点数は増えてるか?

出版業界全体で、出版点数が増える傾向があるのは確かです。
さて、ラノベ業界ではどうでしょうか?


2001年 1月の富士見ファンタジア新刊 8冊
2002年 1月の富士見ファンタジア新刊 7冊
2003年 1月の富士見ファンタジア新刊 7冊
2004年 1月の富士見ファンタジア新刊 7冊
2005年 1月の富士見ファンタジア新刊 7冊
2006年 1月の富士見ファンタジア新刊 8冊
2006年 12月の富士見ファンタジア新刊 6冊
2007年 1月の富士見ファンタジア新刊 11冊
2007年 2月の富士見ファンタジア新刊 8冊
2008年 1月の富士見ファンタジア新刊 9冊


微妙に増加傾向にあるようですね。重版率、品切れ率はわからんので、一旦置きます。
ただまぁ、2001年の富士見ドラゴン3冊→2007年の富士見ドラゴン28冊が、仮に、出版点数増加「のみ」で説明できるとしたら、出版点数は9倍。毎月富士見ファンタジアは60冊でないといけない計算になります。
富士見ドラゴンの部数が増えているであろうことは、まぁ、仮定できそうです。

ブクマコメントお返事

>id:sugimo2
[出版]出版点数増加の理由はこちらを参考にするといいかも→"出版社は絶えず新刊を出してさえいれば、当面の資金調達が可能になるという短期融資的な意味を持っている"http://www.matsumura-lab.tuad.ac.jp/2004/students/yui/6th.htm


良いまとめをありがとうございます。
>id:REV
傍証→大阪屋順位、ジュンク堂在庫冊数など。 ホームラン打とうとしてゴロになるのはアレだけど、最初からバント打とうとしてバント打つのはアリか。


すいません。何に関する傍証で、何がホームラン狙い、バント狙いなのかが読みとれませんでした。
追記:
こちらに記事を書いていただけました。ありがとうございます。
http://lightnovel.g.hatena.ne.jp/REV/20080322/p3
このへんとかも合わせて読むと、順位情報なので具体的に苦戦してるかどうかはわかりませんが、まぁ、ファンタジア文庫も富士見ドラゴンもわりと健闘してる様が伺えますね。情報ありがとうございます。
http://grev.g.hatena.ne.jp/keyword/%e5%af%8c%e5%a3%ab%e8%a6%8bF%e6%96%87%e5%ba%ab

*1:ちなみに出版不況にもかかわらず、何で、ラノベレーベルの新規設立が目立つかというと、ラノベ自体は比較的不況に強いから、というデータがあると聞いたことがあります。もちろん、乱立すれば自転車操業になるわけで楽観しはできませんが

*2:そうでないという主張でもありません